その他

2025.09.01 15:15

「ピッカピカの一年生」「セブンイレブンいい気分」の仕掛け人は『公告』に何を託すか

『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』(杉山恒太郎著、宣伝会議刊)

『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』(杉山恒太郎著、宣伝会議刊)

小学館「ピッカピカの一年生」、セブン-イレブン「セブンイレブンいい気分」、サントリーローヤル「ランボー」シリーズ、AC「WATER MAN」——。数々の大ヒットCMを手がけ、国内外で受賞歴多数、カンヌ国際広告祭審査委員、ロンドン広告賞国際審査員などをも歴任する伝説的クリエイティブ・ディレクターがいる。電通で活躍ののち、現在はライトパブリシティ代表取締役社長を務める杉山恒太郎氏だ。

advertisement

氏は折しもバブル絶頂期の1991年、カンヌ国際広告祭の日本代表審査員を務めたが、その際に世界の公共広告の質と量に圧倒される。「日本の広告が世界で一番面白い」と言われていた時代、その幻想を「アウェイ」の地で打ち砕かれたのだ。

そしてカンヌで見た作品が「人間や社会の暗部も平然と描いて」いることに衝撃を受け、「世間の価値観をアイデアと表現で更新できる」舞台が公共広告にあると気づいた氏は帰国後、「WATER MAN」「骨髄バンク登録(ブッシュ夫人)」といった公共広告で文字通り一世を風靡することになる。

本稿では、世界の優れた公共広告を紹介した杉山氏の著書『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』(宣伝会議刊)から以下、「PROLOGUE 公共広告をめぐる僕自身の履歴書」の一部を転載、「家庭排水:人魚」や「骨髄バンク登録(ブッシュ夫人)」の企画と実装を振り返る。氏による世界への挑戦の企てはどのように行われたのか——。

advertisement

世界への挑戦「WATERMAN」その誕生までの軌跡

公共広告に挑み始めた当初はバブルの後期。広告業界もまだ浮かれていた頃だが、70~80年代にあった良い意味での“ゆとり”も希薄になり、人間の持っている温度や表情を極端に抑えて、効果効率を追求する広告が増え始めていた。

「ピッカピカの一年生」(小学館)や「ランボー」(サントリーローヤル)など、それまでの広告に描かれなかった表現に挑んできた僕は、現状に不自由さを感じてもいた。そんな僕にとって公共広告は“駆け込み寺”となり、クリエイターとしてのリボーンのきっかけともなった。新しいエネルギーが湧いてきて、精神的に潰れずにすんだ。いま振り返ってしみじみそう思う。

1991年に続いて翌年もカンヌの審査員を拝命、僕は自分で入賞レベルの公共広告をつくって“リベンジ”しようと考えた。そこで公共広告機構(現ACジャパン)のご理解を得て、まず1本つくるチャンスをいただいた。それが家庭排水をテーマにした「家庭排水:人魚」だ。海を汚しているのは工業排水だけではない。家庭からの排水も海洋汚染の要因になっている。そのことをノンバーバルに伝えるために、残り物のソースを台所のシンクへ流すと、その下で海の妖精が頭からドロドロの汚水をかぶる。そんなCMだった。これをひっさげてカンヌに出かけ“公約”どおり入賞を果たす。

次に手がけたのは同じく公共広告機構の骨髄バンクのキャンペーン「骨髄バンク登録(ブッシュ夫人)」(1993年)で、ドナー数を大幅に増やすことを目的としたものだった。ここではよき時代のアメリカの肝っ玉母さんとして、世界中から慕われていたブッシュ元大統領夫人のバーバラさんに登場してもらった。

バーバラさんが、みずからボランティアでアメリカの骨髄バンクのキャンペーンに出演し、大変な効果を上げたと聞きつけたところから始まった企画だ。僕は、バーバラさんに出演いただくか、難しければその広告のコメントシーンを引用させていただきたいと申し出て交渉した。

次ページ > 「黒船作戦」

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事