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2025.09.01 15:15

「ピッカピカの一年生」「セブンイレブンいい気分」の仕掛け人は『公告』に何を託すか

『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』(杉山恒太郎著、宣伝会議刊)

結果「引用はOK」との連絡が来て、その映像を使いながらこんなナレーションを入れた。「アメリカではバーバラ・ブッシュ前大統領夫人のこのCMで、骨髄バンクの登録者数が飛躍的に増加しました。骨髄バンクの登録者数、アメリカ93万人、日本はまだ2万6000人。患者の命を救うのはあなたからの電話です」

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これは“黒船作戦”というもの。「海外ではこんなに進んでいる。日本もなんとかしなくては!」とアピールすることで効果を高めるシンプルな方法だ。 

最後のシーンでは、黒バックに電話を映し出し、受話器を取る人の手を入れたが、それもあえての演出だった。メッセージに共感した人たちが、アクションを起こすための受け皿を用意したのだ。日本の公共広告は「患者の命を救うのはあなたの優しさです」といった情緒的なアプローチが多いのだが、そこで終わってしまっては広告の力を示せないだろう。

実際、キャンペーン中には問い合わせが殺到、登録者数が急増したため、広告を一時中断せざるをえないほどだった。骨髄移植推進財団からは感謝状もいただいた。こうした経験から「骨髄バンク」の仕事はもう1年続くことになる。翌年は、コピーとナレーションで「命」という言葉を鍵にして、実際にドナーからの移植を待っている子どもたちに登場してもらった(「わたしに命をくれた人がいる」篇/1994年)。ストレートに「命」という言葉を使うこと、実在する子どもの患者をCMに起用すること、両方とも日本の公共広告ではタブーとされていたから、実現までには説得を重ねる必要があった。

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次に取り組んだのが、若者の「ドラッグ使用」をテーマにした広告(「DRUGS KILL TEENS」篇)。このときは青春のリアリティ、現代的なスピード感のあるロックスピリッツを感じさせる公共広告をつくりたかった。映画『トレインスポッティング』(ダニー・ボイル監督)みたいなトーンの映像だ。そこで草彅剛さんに出演を依頼、企画の意図をご理解いただいて、ほとんどボランティアのような形で登場してもらった。

このとき突破しなければならなかったのは「ドラッグ」という言葉の使用だ。ご存知のようにこの言葉は、違法薬物(当時、報道等では「麻薬」という言葉がよく使われた)を指すこともあれば、「ドラッグストア」のように医薬品全般に対して使われることもある。ゆえに「ドラッグ」という言葉の使用には反対の意見もあった。だが、「ドラッグ」と言わなければ、ティーンエイジャーのリアリティを表現することができない。彼らは「麻薬」とは言わないからだ。そう言われてもピンとこず、メッセージは実感的に伝わらないだろう。

杉山恒太郎(すぎやま・こうたろう)◎立教大学卒業後、1974年電通入社。東京本社クリエーティブディレクターとして活躍。1999年よりデジタル領域のリーダーを務め、インタラクティブ広告(ビジネス)の確立に寄与。トラディショナル広告とインタラクティブ広告の両方を熟知した数少ないエグゼクティブ クリエーティブディレクター。2005年取締役常務執行役員を経て、2012年ライトパブリシティへ移籍。2015年代表取締役社長に就任。主な作品は、小学館「ピッカピカの一年生」、セブンイレブン「セブンイレブンいい気分」、サントリーローヤル「ランボー」シリーズなど。国内外受賞多数。2018年第7回ACCクリエイターズ殿堂入り。2022年全広連 日本宣伝賞「山名賞」を受賞。


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