庄司氏によれば、中国では1980年代以降、愛国主義が強調され始めた。南京の「侵華日軍南京大屠殺遇難同胞紀念館」の設立は85年だった。発端の一因は日本の教科書問題だったが、同時に中国の国内的な要因も大きく働いたという。「中国は当時、改革開放路線に転換したことによる国内の自由化や動揺を収拾するため、共産党や国家に対する求心力を高めることを目的に、鄧小平によって愛国主義教育が推進されました。さらに、80年代末の天安門事件などに対する危機感を背景として、江沢民時代にこの教育路線が一層強化されました」(同氏)。
庄司氏によれば、愛国主義教育では、抗日戦争における栄光の歴史だけではなく、旧日本軍による残虐行為も強調されるようになった。この7月から、抗日戦争紀念館において始まった「民族解放と世界平和」と題する企画展でも、「日本軍国主義による中国人民への犯罪行為」のコーナーが設けられているという。庄司氏は「日中戦争に関連した紀念館では、日本への抵抗、特に反ファシズムとしての共産党の戦いが顕彰されるとともに、旧日本軍による被害を強調することにより、民族団結と強国建設の必要性が説かれています」と指摘する。
トランプ米政権が関税交渉や防衛費の負担増問題などで同盟国・友好国と軋轢を起こしている今日、中国は世界中の国にほほえみ外交を展開している。日本に対しても6月、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出を受けて一昨年夏から停止してきた日本産水産物の輸入を一部再開した。一方、中国北京市の第2中級人民法院(地裁)は16日、スパイ罪で起訴されたアステラス製薬の日本人男性社員に、懲役3年6月の実刑判決を言い渡した。中国は9月3日に「抗日戦争勝利80年」を迎える。ナショナリズムを盛り上げたい国内事情と日米関係にくさびを打ち込みたい対外的な戦略との間で、中国が今後、どのような対応を取るのかに注目が集まる。
庄司氏は「中国では、歴史が政治的に利用されてきた点は否定できないでしょう。日本による侵略に真摯に向き合うことは大切です。しかし、それは事実に基づいたものであるべきことは言うまでもありません。その意味で、かつて、政治から切り離して謙虚に歴史を議論するために設けられた『日中歴史共同研究』のような取り組みがなされていないのが残念です」と語った。


