フランスとスペインでは観光客の行動に違いか
フランスでは観光客に対する地元住民の抵抗が比較的少ないことを説明できる理由は複数ある。特に注目すべきは、同国の旅行者の大部分は自国民である点だ。フランス人の休暇の過ごし方は国内旅行をすることが一般的で、国の観光収入の50~70%を占めている。
国内の旅行者以外には、主にベルギー、英国、ドイツ、スイス、米国などからの観光客が多くを占めている。中国からの旅行者数は依然として新型コロナウイルス流行前の数字より6割程度減っているなど、アジアからの入国者数はパンデミック(世界的な流行)前の水準を大幅に下回っている。ただし、フランスは地理的に北欧と南欧を結ぶ重要な位置にあるため、統計では外国人観光客数が実際より多く数えられている場合がある。
別の統計では、観光客がスペインを訪れた際に支出する金額が増加していることが示された。昨年スペインを訪問した観光客は1260億ユーロ(約21兆7900億円)を費やしたのに対し、フランスを訪れた旅行者の支出は710億ユーロ(約12兆2800億円)にとどまった。これを受け、フランスのナタリー・ドラートル観光相は今年初め、観光客の滞在期間を長くし、支出を増やすよう奨励することが同国の目標だと表明した。だが、旅行者の長期滞在が地元住民の反発を招く可能性はないのだろうか?
フランスとスペインはともに、米民泊仲介大手Airbnbをはじめとする旅行者向けの短期賃貸を厳格に取り締まっているが、両国の違いは地理的な要因にありそうだ。両国の面積はほぼ同じで、フランスの方が9%上回っているに過ぎない。2021年のフランスの人口は約6900万人、スペインの人口は4600万人強だった。ところが、スペインには居住に適さない広大な無人地帯が存在し、これが人口の密集する都市部や沿岸部に大きな圧力をかけている。一方、フランスでは住民の多くが首都圏に集中しているものの、リヨン、トゥールーズ、ストラスブールなど、地方にも多くの都市が分布している。
地理的条件や歴史的背景から、同国を訪れる旅行者はより分散している可能性はあるだろうか? 旅行者がパリを訪れるのは当然だが、北部のシャンパーニュ地方から南部のプロバンス地方まで、フランス国内のさまざまな地域に足を運ぶ。このように、観光客の大多数がパリやモンサンミシェルといった同じ観光地に極端に殺到するわけではないため、国全体として過剰観光がそれほど問題視されないのかもしれない。


