米国での経験が長く、日本人として初めてFDA(米国食品医薬品局)で医療機器医学審査官も務めた内田毅彦氏。現在は日本初の本格的医療機器インキュベーターとして、医療機器開発コンサルティング「サナメディ」の創業CEOを務める。自らも内科・循環器科専門医だ。
内田氏は起業の聖地・シリコンバレーでの医療機器ベンチャーとの協業、コンサルティング会社立ち上げなどの経験も持ち、これまでに総額約37億円の資金調達のほか、世界35カ国での医療機器販売を実現してきた。
米国で多くの起業家、投資家にも会って帰国、「日本のベンチャーキャピタリストには米国と比べ、起業家の失敗に対する許容度が低い人が多い」と憂える内田氏に、本編では「真似されない発明」とはどう起こせばよいのか、そして「失敗を評価すること」の意味を聞いた。
>(前編)日本人初・元FDA審査官のゼロ駆逐式経営論。ビジネスは起業の聖地でこう成就する
「事業化部分」を請け負うシリアルアントレプレナーたち
内田氏は「シリコンバレーですぐれたイノベーションが生まれるのは、スタートアップの母数を増やすのに役立つ起業家精神が文化としてしみついているからだけではない」という。アイディアや発明の先に不可欠な「事業化部分」を請け負うシリアルアントレプレナーの人材プールがあることが理由だ。それが「勝ちを繰り返す」エコシステムを作っているというのだ。
すなわち、自分でなんでもやろうとするから「ゼロ」を生んでしまう。「どこがゼロになりそうか」がわかる人が舵取りをして、ゼロの可能性を丁寧につぶしていくことが肝心、というのである。
「シリコンバレーをはじめ米国には、何度か失敗を経験することで起業の時点で『どこがゼロになりそうか?』がわかるシリアルアントレプレナーが人材プールに潤沢にいることが強みです」

レッテルは貼るな。「失敗は誉」と心得よ
それでは日本で「ゼロがわかる」経験人材プールを増やすにはどうすればよいのだろう。
「それには、日本サッカーがW杯でどうやって強くなったか、を考えると簡単です。そして、起業時に描く設計図、その図中のどこにも『ゼロ』がなければ、おそらく事業化は成功します。
日本は投資をして『日本サッカーリーグ』をプロ化し、Jリーグを作って、世界から選手を呼んで、野球よりサッカーに憧れる少年人口を増やした。そうするうちにカズや中田といった一流選手が生まれて海外に出て活躍し、『中田になりたい』と頂上を目指す日本のサッカー人口がさらに増えた。つまり、サッカー人口のピラミッドができたわけです。その結果、世界で活躍するスタープレーヤーが増えて、そのプレーヤーがコーチにもなって、良い循環が形成され、エコシステムが回るようになりました。
そのピラミッドを作るためには『最初にJリーグを作る』という施策が必要だったわけですが、現在、国を挙げて、スタートアップエコシステムの確立を目指した様々な施策が行われています。その施策が正しく行われていれば、そのうちに日本でもスタートアップのピラミッドが構築されて、エコシステムが回るようになるのだと思います」



