真似されないイノベーションとは
それでは、簡単に真似されない、そしてサステナブルなイノベーションはどう戦略すればよいのか。
「真似されない方法は一つではありません。一つは堅牢な特許ですよね。他には、ノウハウや真似ができない技術があります。たとえば、非常に特殊な加工ができる、その加工が、医療機器としてのコアコンピテンシーになっているような場合は競争力が高いです。
そして、圧倒的なスケール感をもったスケーリング、とくにITサービスのカテゴリーにおいて、スケールで他の追従をゆるさないことが圧倒的な競合優位性になることは自明の理です。
他にもブランドも大事です。コカ・コーラの『コーラ』や『タバスコソース』はレシピに関して、特許は取っていません。営業秘密として秘匿しています。これはノウハウに近いですが、それでも、誰かが同じような味は作り出せますね。にもかかわらず、あれだけの実積が続けられることには、ブランド力が大きく影響しているでしょう。もっともコーラはレシピも経年的に変えているそうですが——。
とにもかくにも、独創だけでは勝てない。たとえば当然、一定数売れたら売り抜けることもビジネスではあり得ますよね。そして、真似されない方法よりも『どうせ真似されるから、こういう方法で戦おう』が強固なストラテジーになり得る業界やカテゴリーもあります」
また、一番乗りのメリットはもちろんあるものの『二番乗りのメリット』も実は興味深い、と内田氏はいう。
「アメリカには『セカンドインクラスにしか投資しない』という方針のベンチャーキャピタリストがいて、すこぶる成功している。なぜなら二番手は開発費が一番手ほどかからないし、医療機器製品だと、承認のハードルも低い。一番手にシェアを大きく取られてから追いかけても、意外に巻き返しができる。価格競争もまだ起きない二番目は十分に勝率が高いから、そのVCは常に二匹目の鰌狙いです」
こんなふうに実は、純粋な『発想のユニークさ』それ自体よりも大切なのは戦略だ、と氏は強調する。
「そして、だからこそ、何度でも言いますが『こんなすごい技術がある』より『ゼロを作らない』経営こそが大切なのです。
日本人は他国が先行している分野において、追いかけるのが得意だったはず。スタートアップ分野もそれは可能だと思っています。国が積極的にスタートアップを支援し、お金も集まり初めて、リスクマネー(VC)の環境も整いつつあります。社会構造も終身雇用型から転職の自由度が増し、スタートアップで働くことが珍しいことでなくなってきました。少子高齢化が進む日本で、イノベーションを多く生み出すことはこの国の未来にとっても非常に重要です。起業の数が増えること。そして成功確率が上がること。もっと多くの皆さんにスタートアップにチャレンジして欲しいですし、自分たちは成功確率が上がるためのお手伝いをこれからも頑張りたい」
内田氏の視線はぐっと未来を見据えていた。
> Forbes Healthcare Creation Award 2023
内田毅彦(うちだ・たかひろ)◎ハーバード公衆衛生大学院修士・ハーバード経営大学院GMP修了。日本人で唯一FDA(米国食品医薬局)医療機器医学審査官を務める。ハーバード・クリニカル・リサーチ・インスティチュート(HCRI、現Baim Institute)リサーチフェロー、ボストン・サイエンティフィック米国本社などを経てサナメディ(旧社名・日本医療機器開発機構)創業。2015年よりAMED「革新的先端研究開発支援事業(LEAP-インキュベートタイプ)」プログラムオフィサー。


