ヘルスケア

2025.08.05 15:15

「2050年、世界人口の50%が近視に」近視患者6億人超の中国、国挙げて対策

Getty Images

近視による経済損失は中国GDPの1~2%

なぜ中国では、これほど近視抑制に力を入れているのか。国策として掲げるのには理由があります。その一つが、経済的要因です。

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研究によると、近視は中国に非常に大きな経済的負担をもたらしています。北京大学が主導した「国家視力ケア報告書」では、2012年時点で視覚障害による経済損失は6820~6910億元(日本円換算すると約14兆3220億円~14兆5110億円)にのぼるという試算を出しています。これは中国のGDPの1~2%にあたります。

近視の人口が増えれば、網膜剥離や近視性黄斑変性、緑内障、白内障といった高齢期の重篤な目の病気の増加につながる可能性が高くなります。それにより今後、高齢者の医療費や視覚障害者を支援するための負担も増えていくでしょう。近視の増加を食い止めることができなければ、社会経済に及ぼす影響は計り知れません。

(出所)『近視は病気です』
(画像:『近視は病気です』より)

それだけではありません。視力矯正にかかる費用は、低所得層にとって大きな負担となります。近視の子どもが視力矯正されない場合、見えないことによる学習意欲の低下が引き起こされ、教育にも影響が出る可能性があります。

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また、重度の近視があると、軍人や警察官、パイロットなどへの就職にも制限がかかります。そのため将来的に国防に支障が出ることも、中国が近視対策に力を入れる理由の一つだと考えられます。

「1日2時間の屋外活動」で近視抑制の成果を上げた台湾

実は中国よりも早く近視対策に乗り出した国があります。それが台湾です。そもそも「1日2時間の屋外活動」が近視抑制に効果があることを発見したのは、台湾の眼科研究者であるウー・ペイチャン(Pei-Chang Wu)氏です。彼は台湾で最も有名な眼科研究者の一人で、「近視の抑制が将来的な目の病気を防ぐ」と、台湾政府に強く訴えたことにより政策が実現しました。

台湾では小学校での「1日2時間の屋外活動」が義務化され、すでに成果を上げています。2011年に小学生の近視率が約50%だったところから、4年間で約46%にまで下げることに成功しました。中国はこの結果を受けて、近視対策に乗り出したのです。


 

(画像:『近視は病気です』より)
(画像:『近視は病気です』より)

子どもの近視を抑制するためのさまざまな施策

中国の国家プロジェクトによる近視対策は、病院や学校、家庭にも及んでいます。子どもたちは3歳になる前に先天性の目の病気がないかを検査し、成長の段階に応じて目の健康データを記録していきます。学校には眼科医を常駐させ、年2回の視力検査を義務化しました。各省で近視改善率を競わせているといわれています。

また、2021年には子どもたちに過剰な勉強をさせないように、「ダブルリダクション政策」として、宿題や学習塾の負担を軽減させる法令が出されました。子どもがゲームをすることも規制されています。これは受験戦争に歯止めをかけ、詰め込み教育からの脱却を目的としていますが、それと同時に子どもたちが外でのびのびと活動できるようになることで、近視抑制にもつながる政策です。

2022年に発表された論文では、小学2年生の子を持つ親を対象に、1年間にわたって1日2回、子どもの屋外遊びを推奨するショートメッセージサービス(SMS)を送信する比較実験を行ったところ、実際に屋外で過ごす時間が増え、近視の発症と進行を遅らせる効果があったと報告されました。

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編集協力=安藤 梢

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