トランプ政権下、グローバルな気候変動対策の主導権は誰が握るのか?——アメリカの気候変動専門家が語る、日本の採るべき針路

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彼女が「もったいない」と語る背景には、連邦政府の動向だけでは捉えきれない、アメリカのもう一つの顔があるからだ。2017年6月、第一期トランプ政権時代がパリ協定からの離脱を表明した際にも、20数州の州知事が「クライメート・アライアンス」を組み、国の方針とは別に脱炭素を進める共同声明を出した。第二期トランプ政権下でもこれらの取り組みは続いている。

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興味深いのは、気候変動対策を進めているのがリベラルな地域にとどまっていないことだ。「ニューヨーク・タイムズ」の「50の州、50の取り組み(50 States, 50 Fixes)」という連載では、保守的な地域でも気候変動対策が進む事例が紹介されているという。

「例えば共和党支持基盤の強いインディアナ州では、教会が中心となって、屋根に太陽光パネルを設置したり、生ごみを堆肥化したり、という取り組みが進んでいます。気候変動対策をうたうのではなく、『神の創作物である地球を大切にする』という価値観や、エネルギーコストを抑えるという実用的な理由から、政治的なイデオロギーにかかわらず進行している例があります」

また、災害を経験したことによって、復旧・予防の必要性を痛感したという切実な動機で気候変動対策を進めている自治体もある。今年1月にカリフォルニア州ロサンゼルス地域を襲った山火事や、7月に発生したテキサス州中央部の洪水など、気候変動による被害は特定の地域に集中的に襲いかかる。国政レベルでは議論に終始していても、実際に被害を受けた地域の住民や自治体は、復旧・復興、そして次の災害に備えるための対策を講じざるを得ない。この「当事者としての切実さ」が地方自治体を行動に駆り立てているのだ。

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そもそも、地域の特性に応じた気候変動対策の最適化は、国レベルの画一的な政策では限界がある。自治体レベルでの主体的な取り組みが不可欠な理由を、古澤氏は自身が関わるボストン近郊の都市、サマビル市を例に説明する。

「温室効果ガス(GHG)排出の要因は地域によって大きく異なります。サマビル市は、アメリカでもっとも人口密度の高い都市の一つで、建物からの排出がGHGの6割以上を占めています。一方で、より低密な自治体では、自動車など交通面の排出の割合が高いでしょう。それぞれの地域の排出特性に応じた戦略を立てるには、現場を知る自治体が主体となって取り組むのが一番効果的だと思います」

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text & edited by Miki Chigira

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