「絵本プロジェクト」をきっかけに商店街組合の理事に
長谷部:矢澤さんは「絵本プロジェクト」を形にしましたよね。
矢澤修(以下、矢澤):僕が「渋谷をつなげる30人」(2020年開催の第5期に参加)に関心を持ったきっかけは、障害のある方の伴走支援の仕事をしていたことでした。「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」という基本構想に惹かれて、この街のダイバーシティの環境を活かせば、彼らの活躍がもっと広がるんじゃないかと思ってました。

最初はそんな想いで入ったんですが、他の29人と対話を重ねる中で、表舞台のキラキラした渋谷だけじゃなく、“縁の下の力持ち”の存在こそがこの街を支えてるんだって気づいたんです。それを子どもたちに伝えたいと思って始めたのが、渋谷の裏方たちを描いた絵本プロジェクトでした。
そこからですね、もっと街に関わりたいという気持ちが強くなって。ちょうどコロナ禍で商店街のシャッターが増えていて、寂しさも感じていました。そんなときに始まったのが「渋谷Local Street Project」。
空き店舗を地域にひらく取り組みに声をかけていただいて、最初に紹介されたのが不動通商店街の物件でした。
もともと実店舗運営の経験はなかったんですけど、「まちと子どもをつなぐ」という自分の事業とも重なって、思い切って飛び込み、そこから、商店街での活動が始まりました。
いまでは商店街の理事も務めていて、ありがたいことに地元の方々から「いい街になってきたね」と言ってもらえることも増えました。
でも商店街の人間だけでは限界がある。だからこそ、地域の町会の方や企業、福祉、子育て、クリエイターなど、いろんなセクターとつながる「くるくる商店街」というプロジェクトを始めたんです。
文化祭みたいに、地域の人たちが一緒になって盛り上げる。これも「渋谷をつなげる30人」での経験があったからこそ、生まれた視点だと思っています。
以前は「用事があるから行く場所」だった区役所が、いまでは「新しいことを始めたいから相談に行く場所」になってる。産業観光や学びとスポーツ、土木など、いろんな部署と連携しながらアイデアを形にしていく。区役所が“やりたい”を後押ししてくれる存在になってきてるんですよね。
長谷部:渋谷で起きているっていうだけで、すごく注目されることってありますよね。もちろん、どこの街でも素敵な取り組みはたくさんあるんだけど、渋谷の場合は発信力というか、情報の届くスピードが速いというか。
でも同時に、それだけ見られてるってことでもあるから、ちゃんと取り組まないといけないっていう責任もある。でも、まさにそうやって丁寧にやってきたからこそ、他の地域からも「うちでもやってみたい」って声がかかるんだと思います。

セクターをつなぐコミュニティの“母”的存在の重要性
加生:佐々木さんは矢澤さんと同じく第5期に渋谷区SDGs協会として参加してくださって、今では実行委員の中でアクセラレーターとして、コミュニティの“母”的存在として活動し、区職員や企業メンバーの挑戦をすごく丁寧に支えてくれています。
佐々木 つぐみ(以下、佐々木):昨年度の第9期で印象的だったのは、国民健康保険課から参加したメンバーの存在です。
彼は能登半島地震直後、応援職員として支援に行った経験から「防災」を自らのテーマとして掲げ、「渋谷をつなげる30人」に自発的に手を挙げて応募してくれました。
実際、私も一緒に今年の冬に能登を視察し、渋谷区の防災課題をどう捉え直せるかを共に考える機会を持ちました。


