ビジネス

2025.07.29 15:15

「こうば」発・共創ムーブメントの今──急増するオープンファクトリー

機能的価値から背景的価値へ:消費行動の変化

現代において、商品の購買意欲を左右する価値観は大きく変容しています。かつては価格や機能といった機能的・経済的価値が重視されていましたが、今はその商品に秘められたストーリーや作り手の想いといった「背景的価値」が、購入の大きな判断基準となっています。例えば、応援購入サービス「Makuake」やSNSを通じた知人によるレコメンド、さらには「推し」が薦めるものを購入する行動など、情報の背景にある物語や共感が消費を促進しているのが現状です。

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「こうば」が「非日常」を生む場所

このように背景的価値が重要視される時代において、ものづくり企業にとってオープンファクトリーは非常に有効な手段だと感じています。普段、消費者は商品がどのように作られ、作り手がどのような想いを込めているかを知る機会はほとんどありません。

しかし、一度ものづくりの現場に足を踏み入れると、「えっ! 全部、手作業?!」「こんなにも丁寧に作られているのか」「作り手の情熱に感動する」といった気づきが生まれます。

「こうばの日常は、一般の人にとって非日常である」と私はよく講演で伝えています。そして、世の中に溢れる情報の中にも、まだまだ知られざるものづくりの世界はたくさん存在します。

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オープンファクトリーは、こうした未知の世界への感動を生み出し、知ること自体が価値に変わる瞬間を作り上げることができるのです。

「まち、ひと、こうば」を彩る FactorISMの挑戦

私が携わるFactorISMも、まさにこの「背景的価値」を追求する取り組みです。「Factory=工場、ISM=主義・主張、Tourism=旅での体験・体感プログラム」を組み合わせた造語であるFactorISMは、単なる工場見学に留まらず、日本のものづくりの誇りを取り戻す新たなムーブメントを創り出すことをめざしています。

2020年に「こうばはまちのエンターテインメント」を合言葉に始まったこのプロジェクトは、ものづくりの現場を一般開放し、五感を通じてその魅力を体験・体感できる機会を提供しています。初年度35社で始まった小さなムーブメントは、4年目の現在、93社、13市町村エリアにまで拡大しました。これは単なるイベントではなく、参加企業が「自由に、楽しく、自分ごとに」活動できる「文化祭」のような機能を持つコミュニティへと成長しているからです。

FactorISMでは、明確なレギュレーションを設けず、参加企業が自主的に工場見学やワークショップの内容を企画できるように、人材育成研修を重ねており、1年目の企業が経験者から学ぶ「見本ツアー」や、企画内容を発表するプレイベントなど、参加企業同士が学び合い、教え合う仕組みを導入することで、自発的な活動を促しています。その結果、合同でのワークショップや地域周遊マップの自主制作、さらには経営者によるバンド結成といった、ユニークな活動が次々と生まれています。

「違い」を受け入れ、「和える」共創の力

FactorISMの根底には、「共創」の思想があります。経済産業省近畿経済産業局が「社会に変化をもたらす新しい価値を共に生み出す活動です。

そのために、画一的でない価値観を有する多様なステークホルダーと、共有された大きな目的のもと、創造的対話を継続的に実施する」と定義するように、共創は多様な価値観を持つ人々が対話を重ね、共通の目的を見出すことから生まれていくのです。

何より、私はこの共創において、お互いの「違い」を受け入れ、「和える」ことが重要だと考えています。

まるでほうれん草の胡麻和えのように、食材の形を変えずに混ざり合うように、コミュニティにおいても強制的に混ぜすぎるのではなく、ほどよく混ぜることで、互いの目的が調和し、尊重し合い、引き立て合う関係性が生まれます。

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文=松尾泰貴

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