最新の医学的ブレークスルーを把握して、日々の診断に活用しようとする医師たちは、多大な困難に直面している。なぜなら新たな論文は30秒ごとに1本のペースで発表されており、激務の合間にそのすべてを精査して診断や治療計画を立てるのは、ほとんど不可能に近いからだ。
OpenEvidenceで数百万件の論文を検索し、最良の回答を迅速に見付ける
「現代の医療は、新薬や優れた治療法が次々と開発されるバイオテクノロジーの黄金期を迎えていると考えられがちだが、現場の医師たちは燃え尽き症候群が蔓延する暗黒時代に立っている」と、OpenEvidence(オープンエビデンス)の共同創業者でCEOであるダニエル・ナドラーはフォーブスに語った。「とめどもない量の情報が押し寄せる中で、人間の脳には数百万件もの論文を読みこなす能力がないのだ」.
そこで、ハーバード大学で博士号を取得し、2018年に以前のスタートアップを5億5000万ドル(約814億円。1ドル=148円換算)で売却した経験を持つ42歳のナドラーは、この問題を人工知能(AI)で解決しようと考えた。現在、OpenEvidenceの独自アルゴリズムは、ニューイングランド医学ジャーナルや米国医師会雑誌(JAMA)といった一流誌を含む数百万件の査読付き論文を検索し、医師が最良の回答を迅速に見付けられるようにしている。このソフトウェアは、登録済みの医師に対して無料で提供されており、収益はグーグルのような仕組みで広告から得ている。
「OpenEvidenceは、ヘルスケアにおけるグーグルのような存在になるだろう」と、ベンチャーキャピタル(VC)のクライナー・パーキンスのビリオネアの会長のジョン・ドーアは語る。彼は個人としても、会社からも同社に出資しており、「これは、医師向けに無料で提供される画期的ビジネスモデルだ」と付け加えた。
米国医師の40%にあたる43万人以上が利用中
2022年に設立されたOpenEvidenceは、米国医師の40%にあたる43万人以上が利用中で、現在も月に6万5000人のペースで新規ユーザーを増やしている。同社の広告収入は年換算で推定5000万ドル(約74億円)で、これは決して巨額ではないものの、ソフトウェアの急速な普及を受けて投資家たちは大きな期待を寄せている。同社は7月15日、グーグルの投資部門GVやクライナー・パーキンスの主導で2億1000万ドル(約310億8000万円)を調達したと発表した。またこのラウンドの評価額は35億ドル(約5180億円)で、前回2月の調達時の10億ドル(約1480億円)から一気に上昇したとナドラーは語った。OpenEvidenceは、コーチューやコンヴィクション、スライブ・キャピタルといった他の著名なVCの支援も受けている。
「私は自分自身に賭けたかったんだ」
この新たな調達によって、OpenEvidenceの約60%を保有するナドラーの保有資産は23億ドル(約3404億円)に達し、ビリオネアになったとフォーブスは推定している。共同創業者で30歳のCTO、ザック・ジーグラーは約10%を保有しており、その持ち分の価値は約3億5000万ドル(約518億円)に達する。ナドラーは、同社の最初のシード投資家として、VCからの調達前に1000万ドル(約14億8000万円)を自ら出資したことで、これだけの持ち分を確保していた。
「2回目の起業のメリットは、前回よりも賢く立ち回れる点にある」とナドラーは語る。「2社目は1社目よりも大きな企業になると思ったから、最初の1000万ドルは自分で出そうと考えた。これは人生で一番賢い投資判断になった。私は自分自身に賭けたかったんだ」。



