「広告モデル」というチャレンジ
OpenEvidenceの広告モデルがどれほど成功を収められるかは、まだ未知数だ。
製薬会社は、自社の薬に関する詳細な情報について、多額の広告費用を投じることで処方する可能性の高い医師の目に触れさせるチャンスを得ている。また広告モデルによる収入があるからこそ、OpenEvidenceは同社ツールを医師に無料で提供できており、より多くの臨床医を爆発的に引きつけている。臨床医からのフィードバックに基づいてアルゴリズムを調整して、検索結果を改善しやすくなるという利点もある。
こうした循環は、ナドラーのいう「幻想のフライホイール(fantasy flywheel)」を生み出す。つまり、ユーザーが増えることでプロダクトの質が上がり、それによってさらに多くのユーザーが集まるという好循環が生まれることになる。
しかし、2024年の医療・製薬関連の広告費が総額で約300億ドル(約4.5兆円)に達したとはいえ、ヘルステック分野で広告モデルを採用するのはまだ珍しく、現状多くのソフトウェアはサブスクリプション方式だ。「みんな広告を嫌っているけど、私は広告モデルが好きなんだ」とナドラーは語る。ただし彼自身も、同社が現在保有する3億5000万ドル(約518億円)を超える潜在的な広告の在庫が、これまでに実際に販売できた広告量を大きく上回っていると認めている。「グーグルも人々に広告モデルに慣れてもらうのに時間をかけた。我々もその段階にいる」。
より優れた信頼性の高い回答を導き出す「推論モデル」アプローチ
マサチューセッツ総合病院の神経学部門の副部長であり、同病院の脳卒中センターの所長を務めるアニシュ・シンガル医師は、病院のシステム全体に送られた一斉メールでOpenEvidenceについて知り、1年前にこのアプリをダウンロードした。それ以来、このツールは彼の部下の研修医や外科医仲間の間で人気を集めていると感じているという。「みんな使っているようだ」と彼は話す。
彼は成人の脳卒中に関する最新の研究を探したかったが、それは専門サイトやオンラインの教科書を何時間もかけて調べなければならないような骨の折れる作業だった。しかしOpenEvidenceのツールはChatGPTのような汎用チャットボットよりもはるかに優れており、患者の病歴に関して尋ねるべきフォローアップの質問や実施すべき検査を提案してくれたという。「ChatGPTは、ただ直接的な答えを返すだけで止まってしまう」とシンガル医師は話す。
OpenEvidenceは、これまで驚異的な勢いで成長しており、医師の登録ペースも加速している。これは、投資家のブライヤーが重視する重要な指標だ。「週次や月次のアップデートを見るたびに、ダニエル(ナドラー)が常に期待を超える成果を出し続けていることに大きな自信が持てる」と彼は語る。
OpenEvidenceは現在、「推論モデル」と呼ばれる新たなアプローチに取り組んでいる。これは、AIが課題を段階的に考える手法で、より優れた信頼性の高い回答を導き出すものだ。今月、同社はこの技術を活用した新機能の「DeepConsult(ディープコンサルト)」をリリースした。これにより、異なる研究の間にある関連性を結びつけ、特定のテーマについて高度な調査を実施できるようになる。「この機能は、医師が他の仕事をしている間に、M.D.やPh.D.のチームが代わりに非常に深い調査を行ってくれるようなものだ」と共同創業者のジーグラーは語る。
すべてを集約するヘルスケア・ハブへ
OpenEvidenceのテクノロジーは、他の科学分野にも応用できる可能性はあるものの、ナドラーは今のところその方向には目を向けていない。彼は、米国国内と海外の両方で、特に質の高い医療へのアクセスが限られている国々におけるヘルスケアの向上に専念したいと考えている。医療業界では現在、医師向けのメモ作成ツールから診断支援のAIまで、多様なAI技術が登場しており、それに患者の検査結果や血糖値モニターなど医療機器から得られるデータを組み合わせることで、すべての情報をひとつに統合する機会が生まれている。
OpenEvidenceの投資家の一社、コーチュー共同創業者のトーマス・ラフォンは、将来的にこのスタートアップが、こうしたツールのすべてを集約する中心的存在、いわばヘルスケア・ハブになると考えている。「想像力を働かせて未来を予測すれば、すべての診断がOpenEvidenceを通じて行われるような世界が見えてくる」と彼は語った。


