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2025.07.18 11:00

「医師向けのChatGPT」でビリオネアになった連続起業家―「自分自身に賭けたかった」

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OpenEvidenceの設立

ナドラーは2021年、ハーバードで機械学習の博士課程に在籍しながら、何かを始めたいと思っていたジーグラーとチームを組んだ。ふたりには共通の直感があった。「膨大なデータの中からパターンを見出してトレーダーを支援するためのAI技術は、医師を支援することもでき、しかもその影響ははるかに大きいのではないか」と彼らは考えた。

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ふたりはまた、個人的な経験からも医療分野に興味を持っていた。ナドラーの祖父は医療ミスで亡くなり、ジーグラーも当時22歳だった義兄が白血病の治療を受ける姿を見守っていた。「あの時の経験が自分の転換点になった。医療分野には、膨大なデータが溢れているのに、医師たちは昔と変わらないやり方で、紙をめくって情報を得ていることに気付いた」と、ジーグラーは振り返る。

「お前たち全員を周回遅れにしてやる」

Kenshoに投資していた著名投資家ジム・ブレイヤーは、ナドラーのOpenEvidenceのアイデアについて4時間話を聞き、2022年にケン・モイリスとともに最初の外部投資家のひとりとなった。2005年にフェイスブック(2004年2月設立)に初期投資を行ったことで知られるブレイヤーは、ナドラーを稀有な創業者のひとりだと考えている。「ダニエルはきわめて非凡な起業家だ。医学論文の分析にAIを活用するというアイデアは、実に見事だった」と彼は語る。

2023年初めにOpenEvidenceは、メイヨー・クリニックの医療系スタートアップ向けの名誉あるアクセラレーターに参加した。このプログラムでは、世界最高の医療データセットを有するとされる同病院で、製品や技術を磨くことができる。ナドラーは2023年に公開されたビデオで、「ここには医療分野で最大かつ最高品質のデータセットがある」と述べていた。この頃にはAI分野は急成長しており、ナドラーが10年かけて積み上げてきた知見が大きな価値を持つようになっていた。「みんなが暗号資産ブームから撤退しようとしていた時期に、私は『お前たち全員を周回遅れにしてやる』と思っていた」と彼は語る。

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高い信頼性への挑戦――医療分野の最高のデータで学習

医療分野のビジネスは困難なもので、AIベースの検索が常に最良の答えを出せるとは限らない。ナドラーは、JAMAやニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンなどの「医療分野で最高峰のデータベース」を用いることで、稀な疾患や薬の副作用に関する信頼性の高い情報を引き出し、AIの「ハルシネーション」を最小限に抑えていると主張する。「AIはゴミを食べさせればゴミを吐き出すが、最良のデータを入れれば、最良の結果を導く」と彼は語る。「重要なのは、マニアが喜ぶようなアルゴリズムを作ることではない」。

ニューヨークのマウントサイナイ病院で多発性硬化症を専門とするスティーブン・クリーガー医師は先日、研修医からOpenEvidenceのツールがどう役立つかを聞いたという。彼は、ペニシリンにアレルギーがある患者の神経感染症に使える抗生物質を調べる必要があったが、それは彼の専門外だった。彼はまず、このツールの精度を確かめるために、自分の専門分野の研究結果についてOpenEvidenceに尋ね、さらに感染症を専門とする同僚にも確認をとった。その結果、OpenEvidenceは彼の研究を正確に要約し、しかもまだ発表されていない制約条件まで指摘したという。「このツールに自分の研究の限界を指摘されて、それに自分でも納得できたという事実に、私は感動した」と彼は語る。

文献を参照もせずに直感に頼るよりは、はるかにミスを減らせる

しかしその一方で、ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院の講師で『Artificial Intelligence for Improved Patient Outcomes』の著者でもあるダニエル・バーンは、「それほど単純な話ではない」と指摘する。「多くの人が誤解しているのは、医学論文の半分近くが間違っているということだ」と彼は語る。論文の中には、結論が後に覆される科学的議論や臨床試験も多く含まれているという。「AIの答えの中に、参考文献からの引用が含まれることは正しい方向への前進といえるが、それだけでは十分ではない」とバーンは語る。

OpenEvidenceの医療ディレクターを務めるトラビス・ザック医師は、「どんなAIにも誤りはあるが、それでも1日20人もの患者を診る医師が文献を参照もせずに直感に頼るよりは、はるかにミスを減らせる」と主張する。「OpenEvidenceは、医師が直感に頼らずに済むようにする」と彼は語る。

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編集=上田裕資

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