マーケティング

2025.07.21 14:15

贅沢から倫理へ──“泡”の意味を変えたブランド、ソーダストリームの進化

“敵対”から“共創”へ。変わるマーケティングの思想

マーケティングの手法も、時代とともに大きく進化してきた。ソーダストリームがプラスチック汚染による環境問題に着目したのは、SDGsの取り組みが広がるよりも早い段階。海洋に流れ出したプラスチックごみが魚介類を汚染し、それが人間の健康にも影響を及ぼすという問題は、まだ一般に知られていなかった。

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そのなかで、同社は社会に問題の深刻さを伝えるため、極めて刺激の強い広告キャンペーンを展開した。自由の女神像を背景にした金網の中に数千本のペットボトルを積み上げた「Drowning Liberty」、ドイツでは国会議事堂前の川をボトルで埋め尽くした「浮かぶゴミの海」、日本では寿司のネタに見立てたペットボトルを箸でつまむ広告など、視覚に強く訴える手法で注目を集めた。

これらの活動は、使い捨てプラスチックごみを「敵」と位置づけ、その大量消費に社会的警鐘を鳴らすグローバルな取り組みだった。

「私たちのマーケティング手法も変わってきました」と平野は語る。今では対立ではなく食品を世界中に届ける責任ある大企業として共創、反発ではなく共感を軸に、生活者の日常に自然と溶け込むメッセージづくりが重視されている。

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「ですから今年の渋谷のキャンペーンは、毒気を抜いたトーンで行いました。反発ではなく、共感から始めたいと思って。渋谷のスクランブル交差点の広告をジャックはしましたが、ミス・アース・ジャパン日本代表に来ていただいて、ひとりひとりの消費者と笑顔でコミュニケーションして自分ごと化してもらうことを意識しています」(平野)

「あたりまえ」を変えるブランドであるために

この思想は、同社の製品開発にも貫かれている。単なるエコなイメージにとどまらず、「おいしい」「便利」「コストパフォーマンスがいい」という日常的な実感を、ユーザーにもたらすこと。それがなければ習慣にはならない、と平野は語る。

たとえばコスト感。500mlの炭酸水が1本約20円で楽しめ、かつ強さや味の濃さも好みに応じて調整できる点は、多くのユーザーにとって“納得感”のある選択肢になっている。

「私たちが目指しているのは、“一家に一台”が当たり前になる社会です。たとえば炊飯器のように、各家庭に当たり前に存在し、合理的な飲み物習慣を叶える家電になることを本気で目指しています」(平野)

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文=青山鼓 撮影=吉松 伸太郎

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