安価なエネルギーがインフレ抑制に役立ち、米連邦準備制度理事会(FRB)に大幅な金利引き下げの余地を与えるならば、理論的には補助金は数倍の利益を生む可能性がある。さらに、エネルギー料金の低下は、データセンターから海運まで、経済全体に波及し、関税による価格上昇を相殺するデフレ圧力を生み出すだろう。
戦略上のリスク
とはいえ、この構想には重大な弱点が存在しないわけではない。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は経済的に追い詰められた場合、降伏するのではなく、むしろ事態を激化させるかもしれない。ロシアは伝統的に、存在を脅かす脅威に対しては降伏ではなく、攻撃を強めるという形で対応してきたからだ。
また、最大の不確定要素である中国についても考慮する必要がある。ロシア産エネルギーの主要な買い手として、たとえ米国産の代替品の方が安価であったとしても、中国はロシア経済を支える可能性がある。だが、米国の補助金が1バレル当たり30~40ドル(約4470~5960円)に大幅に増額されれば、状況は一変するかもしれない。米国産のエネルギー価格が十分に下落すれば、中国はロシア支援より自国の経済的利益を優先する可能性が高いからだ。そうなれば、米国産エネルギーは抵抗しがたいものになるのではないだろうか?
計算では把握できない要素も
この戦略は本質的に、長期にわたる紛争と経済的不確実性のコストとの比較で、補助金をそれほど悪くないものとして取り扱っている。軍事支援では達成できなかったこと、つまり戦争の早期解決を経済的圧力によって実現できるかどうかは、大きな賭けだ。
理論上は成立しても、地政学が経済理論に従うことはめったにない。ロシアが経済的困難に耐える力は歴史的に見ても驚くべきもので、安価なエネルギーが自動的にFRBの利下げを招くという仮定には、必ずしも予測通りに動くとは限らない複数の経済変数が関わってくる。
それでも、継続的な軍事支出や長期にわたる経済的不確実性といった他の選択肢と比較すると、500億ドルのエネルギー補助金は無謀な支出というより、計算されたリスクのように見えてくる。それが実際に機能するかどうかは、計算の段階では完全に把握できない要因に左右される。


