2025年6月、“会社側の完勝”と報じられたフジ・メディア・ホールディングス(FMH)の株主総会。
しかしその裏では、陣営の分断や、受け入れる意思の見えないFMHの選考が静かに進んでいた。ダルトン側の提案が否決されるまでの顛末を、当事者である筆者がいま明かす。
それは、3月上旬、旧友であるダルトン投資ファンドの共同創業者・投資統括責任者のジェイミー・ローゼンワルドと、その日本法人社長・林史郎氏からの一本の電話から始まった。ローゼンワルドとは10年以上の親交があり、彼が日本のメディア・エンターテインメント企業へ投資する際に、筆者はボランティアで助言を行ってきた。お互い米国の大学で教授を務め、報酬以上の寄付を行い、奨学基金を設立するなど共通点も多く、相互に信頼を深めてきた。
今回の依頼は、フジ・メディア・ホールディングス(FMH)に対して株主提案を行い、不動産事業の分離と、「中居事件」によって収益性が低下し経営危機にあるフジテレビに対し再建策を示したいというものであった。そして筆者を社外取締役候補として推薦すると同時に、さらに放送業界の経営に知見のある候補者をリクルートして欲しいと言う依頼だった。
託された“密書”──動き出していたMBO構想
実は前年、筆者はローゼンワルドからの密書を預かり、旧知の飯島一暢・FMHの子会社であるサンケイビル社長に手渡すよう頼まれていた。その中身はFMHからの分離をMBO(マネジメント・バイアウト)によって検討するよう求める内容であると説明を受けていたので、おそらく不動産事業の分離が叶わないとみての株主提案だと思った。
FMHの経営は、長年不振が続くフジテレビを、堅調な業績を維持してきたサンケイビルが支える構図であった。中居事件がフジテレビにとどめを刺したことから、投資家としてのローゼンワルドの提案は短期的利益を追うものではなく、長期で株を保有し、経営に提案を行うことで企業価値を高め、7~8年後に売却益を目指すバリューファンドであることを信じて、筆者も協力を決意した。
筆者が推薦したのは、大学院で客員教授を務める3人。福田淳氏(STARTO ENTERTAINMENT社長、元ソニー・デジタル創業者)、堤伸輔氏(元新潮社編集員、元国際情報誌「フォーサイト」編集長)、松島恵美弁護士(元ソニー・ピクチャーズ法務部長、日米弁護士資格保有)であった。
ところが、ダルトン東京オフィスは独自に候補者を追加し、なかには適性に懸念の残る候補者も含まれていた。そして、株主提案の直前である4月12日、筆者らとの事前協議の場を設けず、北尾吉孝氏(SBI会長)、近藤太香巳氏(ネクシーズグループ社長)を加えた。
つまり、取締役候補者は3つのグループに分断され、その間の意見調整は行われず、この時点で勝負は決まっていた。



