━━AIへの高い期待もあってか、サイバーセキュリティについての話題が下火になっています。
レヴィ:データ保護は何よりも重要です。Boxでは、データセキュリティをすべてにおいて最優先に考えています。実際、データセキュリティはAI分野の基盤です。繰り返しになりますが、「エージェント・セキュリティ」が主要テーマになることでしょう。知識労働者や、何らかのかたちでコンピュータを扱う人々が数十億人いる世界を想像してみてください。さらに、人間の何十倍もの数のAIエージェントが存在したらどうでしょう。そのすべてを管理するところを想像してみてください。人間に対するセキュリティよりもはるかに大きな問題になるのではないでしょうか。
━━「エージェントは秘密を守れない」からですね?
レヴィ:そう、「エージェントは秘密を守れない」のです。見つけたデータを漏洩する可能性があります。それも意図的にではなく、誤ってです。下手したら誰にでも渡してしまいますよ。「ソーシャル・エンジニアリング(人の心理的な隙を突き、情報やパスワードを騙し取る詐欺の手法)」でAIエージェントから欲しいデータを引き出せれば、今までとは異なる次元の問題を引き起こすことでしょう。
例えば、銀行のカスタマーサポートのチャットボットと“会話”し、そこから秘密を引き出すことができるかもしれない。システムをハッキングする新たな手口になるでしょう。AIエージェントがデータ漏洩のポイントで脆弱性の領域だと予測するような、データセキュリティの新たなパラダイムが必要になるはずです。
━━政府機関や企業はいかなる情報の漏洩も避けたいはずです。それでも、AIがもたらす生産性や効率性といったビジネス面の価値への期待が高まっています。現段階では、顧客にとってAI機能とセキュリティ面のいずれへの関心が強いのでしょうか?
レヴィ:思うに、セキュリティは必須条件です。AIを導入するなら、データセキュリティは不可欠でしょう。まずは自社のAI環境やデータ環境を保護しなければいけません。そうして初めて、組織全体にAIの力を全開に解き放つことができるからです。
━━かつては金融・保険、製薬、政府機関といったセキュリティ面で高い堅牢性が求められる業界に戦略的にアプローチしてから、その後に他の産業へ水平展開されていました。顧客へのアプローチや反応に変化はありましたか?
レヴィ:より多くの企業にリーチし、特定の業界にもより深く入り込めるようになったことでしょうか。特に日本では、信じられないほどの成長を遂げました。労働力不足もあって、日本の企業はいつの時代も生産性を高めようとしてきたように感じます。労働力が足りなければ、従業員の生産性を向上させる必要があります。「自動化」こそが、それを実現する手段です。工場では当たり前ですが、問題はそれをナレッジワーク(知識労働)の環境でどう実現するかです。
AIは、多くの点で「知識労働のためのロボティクス」なのです。工場のロボット化を考えてみてください。これからは知識労働をロボット化する段階になりました。それが、新しい時代なのです。AIを使って多くの知識労働を自動化し、従業員がより興味をもてる仕事に取り組み、生産性を大幅に向上させられるようにする━━。工場の機械のように、AIエージェントに縁の下の力持ちとして仕事をさせられます。日本の企業はそうした未来に楽観的で、期待を寄せているのではないでしょうか。その期待感もあってか、日本では大きな成長が見られます。


