｢数学はできないから、文系を選ぼう」
高校時代、こう考えて進路を決めた記憶がよみがえる。しかし、今ならば“できる・できない”という単純な話ではなく、好きかどうか、興味があるかどうかで進路を考える若い世代を増やしたいと思う。そもそも、理系や文系という枠組みそのものが必要なのか？との疑問も持っている。そのような問いを抱えながら、GovTech東京に向かった。
2025年6月11日、GovTech東京のオフィスに入ると、品川女子学院の生徒たちの明るい声が響いていた。「Girls Meet STEM in TOKYO」の企画として、オフィスツアーと記者発表会を同時に開催。23名の女子高生たちが、STEM分野で働く女性職員たちと対話をした。
小池百合子都知事も駆けつけ、生徒たちに直接エールを送った。なぜ今、東京都はSTEM分野での女性活躍にこれほど力を入れるのか。
世界トップの学力、なのに活躍率は「最下位」
「日本の女子学生の理科や数学の学力、世界でどのくらいだと思いますか？」
記者発表会に登壇した東京都の松本明子副知事が冒頭で投げかけた。答えは、「世界トップレベル」。OECDの国際学力調査（PISA）によれば、日本の15歳女子の数学・科学的リテラシーは加盟国の中でトップレベルと評価されている。
しかし、STEM分野で大学進学する日本人女性の割合は、38カ国中最下位。この数字を聞いて、日本社会の課題を突きつけられた思いがした。能力があるにも関わらず、社会で発揮できていないということだろう。
要因は2つあると松本副知事は続ける。一つは、身近にSTEM分野で活躍する女性の姿が見えないこと。もう一つは、「理系は男子の世界」との思い込みが根強く残っていることだ。
そして、大学でSTEM分野を学ぶ女性が少ないため、高校生は将来の自分の姿を思い描けていない。結果、理系を選ぶ女子がさらに減少する。この連鎖が何十年も続いているのが日本の現実だという。
参加企業「1社→50社」と急拡大
東京都は2022年度から、女子中高生がSTEM分野の企業を訪ね、働く女性社員と交流したり、最新技術を体験したりする「オフィスツアー」を実施している。3年間で合計定員844名に対して約1万件もの応募があり、ニーズの高さを実感してきた。
実はこのオフィスツアー、3年前の開始時は参加企業はたった1社。今年は50社を超えた。
「東京都さんとは、たまたま同じ方向を向いていたんです」と、メルカリの代表執行役CEOで山田進太郎D&I財団代表理事を務める山田進太郎氏は振り返る。
同財団は、2035年までに大学入学者におけるSTEM学部の女性比率を28％まで引き上げることを目標に活動している。東京都の取り組みを知った財団側から声をかけ、今年1月に連携協定を締結。東京都が広報を、財団が、全国の有力企業・機関に対し参加を呼びかけるとともに、ツアーの設計・運営面も担うことで、一気に規模が拡大した。
