キュレーションを担当した正光さんは、「金を通して見える風景について、より多くの人と、さまざまな視点で対話をしたい」という思いから、ジュエリーの展示ではなく、金のデザインの展示と紹介することにこだわったと言います。たしかに展示の告知文やイントロダクションには「ジュエリー」という言葉はほとんど登場しません。
また出展作家に関しても、大御所や若手、ジャンル・制作年・ジェンダーなどが偏らないように意識してピックアップしたと言います。参加作家には、薗部悦子さんなどすでに名を馳せるジュエリー作家だけではなく、ミラノを拠点に活動するプロダクトデザイナーの大城健作さん、ロンドンのクリエイティブ集団TOMATOの創立メンバーであるサイモン・テイラーさんなど、領域を超えたクリエーターたちの名前が並びます。
このような多角的な展示は、正光さんが感じていたジュエリー界の閉塞感への抵抗でもありました。ジュエリーはアートや工芸、デザインの狭間にありながら、領域の垣根を越えて語られることが少ない。作品が身につけられるかどうかよりも、作家のアイデンティティや表現に重きを置いて評価されることも多く、アート活動を行っていないジュエリー作家への冷たい目線もあるといいます。

「もっと身につける人に寄り添いたいし、作品を通じてより遠い人とつながりたい。単純にかっこいいか、素敵かで判断してもいいと思うような、日常の中で人を鼓舞できるジュエリーを作りたい」
彼女は自身の出展作品「EMBROIDERY」と名付けたシリーズで、金の素材としての魅力に着目し、より少ない量の金で十分に人を満たすことのできるジュエリーを探求しています。
クラシックでありながら、着用性やユーモアをバランスよく編み込んだ同作は、0.4mm厚のフラットなリングの上に、絵画を描くように金線で文字や絵を一つ一つレーザー溶接して制作されています。このシリーズはビスポークとして個別受注もしており、あらゆる人と唯一無二のピースを作るための試みにもなっています。
またEMBROIDERYの構想では、軽く、細く、薄く……意外性のある図柄や書体を組み合わせることで金を軽やかに表現することをかなり意識したといいます。


