「金」と「金色」から見る新しいラグジュアリーの輪郭

渋谷ヒカリエで行われていたデザイン展『A Piece of Gold』(Photo by Asuka Ito)

渋谷ヒカリエで行われていたデザイン展『A Piece of Gold』(Photo by Asuka Ito)

皆さんは「ラグジュアリーな素材」と聞いて一番に何を思い浮かべますか? その素材がラグジュアリーと感じられるのは、その希少価値ゆえでしょうか。それとも物語性でしょうか。

人類を古くから魅了してきた金。紀元前6000年頃から装飾品や権威の象徴として用いられたその素材は、不変の輝きと加工性の高さで文化と共に歩んできました。金の輝きは歴史を動かしてきましたが、近年は地政学リスクから価格高騰ばかりが注目されています。この10年足らずでおよそ3倍に高騰し、特に近年その上昇幅が急激です。

需要が高まる一方で、金を取り巻く物語の「重さ」や「熱」、あるいは敷居の高さからくる排他的な印象が「金=いやらしい」のようなイメージを人々に植え付けているようにも見えます。

そんな固定観念を払う展示に、今年2月に出会いました。ロンドンと京都を拠点とするデザインハウス・Anyhowとジュエリーデザイナー・正光亜実さんが企画し、渋谷ヒカリエで行われていたデザイン展『A Piece of Gold』です。

Photo by Asuka Ito
(Photo by Asuka Ito)

展示は会場を3つの空間に分けて構成されていました。入って正面には国内外から集められた作家たちの作品展示、その右側の空間には金を多角的に紹介する資料の展示、そして左側の空間には出展作家の制作風景映像が上映されていました。

まず印象的だったのは、右側の空間に資料のひとつとして展示されていたアンティークジュエリー。2024年に閉店した山梨のアンティークジュエリーショップ、CAFE CAFE MARKETの栗原はる子さんのコレクションから選ばれた5点のジュエリーとそれぞれの時代背景や物語が丁寧に展示されていました。

特に目を引いたのは、イギリスの17世紀初頭から19世紀終わりにかけて流行した「スチュアートリング」という愛する人の死を悼むジュエリーの一例です。身内にしか分からないように暗号化された金細工や、布地の代わりに故人の毛髪を緻密に編み込み仕立てたディテールなど、実物を通して感じる人間の関係性や時代固有の感覚に衝撃と感動を覚えました。

Stuart Ring
Stuart Ring
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文=前澤知美(前半)、安西洋之(後半)

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