2人の人間が実際に会って話す場合とコミュニケーションメディアを通じた場合とで、対話の質は変わるのか。詳しい実験により興味深い結果が示された。
早稲田大学、老舗IT企業のTIS、岡山理科大学、東京都市大学からなる研究チームは、1対1のコミュニケーションで、対面、ビデオ通話、バーチャル空間でのリアルなアバターを介した場合、非リアルなアバターを介した場合の4つの条件で、どれほど自己開示が可能か、つまりありのままの感情やプライベートな情報を相手に提示できるかを検証した。

実験では、参加者の言語行動、非言語行動、生理的反応を観察し、情報、思考、感情の3つのカテゴリーごとに自己開示レベルを判定しスコア化した(客観的データ)。感情とは、不安、不満、憂うつ、恥、恐怖などに関することで、一般にこれがもっとも自己開示しにくいカテゴリーとされている。
その結果、開示が難しいカテゴリーほど、リアルとバーチャルとの間でスコアに開きがあった。どのカテゴリーともリアルよりもバーチャルのほうがスコアが高く、バーチャルは自己開示しやすいことが示された。とくに感情は、対面ではスコアがもっとも低く、バーチャルとの差が大きい。
また、参加者からアンケートで対話中の認識を聞きとり解析を行った(主観的データ)。そこでは、客観データとのズレも示された。たとえば自己開示は、リアルなアバターがもっとも高く、ほかはあまり違いが見られない。互恵性、親密さ、信頼関係もほとんど差がなく、会話の楽しさはリアルなアバターがもっとも高い。だが、満足度に関してはリアルのほうが明らかに高かった。
実験では、男女の組み合わせによる違いも検証された。リアル、バーチャルとも女性同士はスコアが突出して高い。反対に、女性から男性に開示する場合は低くなる傾向が見られた。女性は男性に対して警戒心があるためだというが、その警戒心は、言語行動にあまり反映されないこともわかった。こうした実際の行動と認識のギャップが何を意味するのか、今後の研究に期待したいところだ。
この研究結果は「感情表出に関連するさまざまなVRサービスへの発展的な適用が期待されます」とのこと。たとえば、バーチャル心理療法、介護ヘルパーのためのケアギバーカフェといったサービスだ。
また研究者のひとりは、2017年ごろにリリースされたソーシャルVRサービスで、大人の男性同士が美少女アバターとなって仲睦まじく「抱っこごっこ」をする様子を見て、リアルな世界ではあり得ないその「自由で率直なコミュニケーション」に驚いたと話している。それを受けて、バーチャル空間をうまく利用すればユートピアも実現できるのではないかと希望を語っている。



