ハリケーンなどの低気圧は、容赦ない力であたりを撹乱し、海岸線の形を変え、生態系を混沌に陥れる。その拡大する惨禍から、ほとんどの生物は逃れるが、ある小さな海鳥は、思いもよらない行動に出る──低気圧を追いかけるのだ。
ミズナギドリという海鳥の中には、ハリケーンや低気圧へ向かって飛ぶという類まれな生存戦略を採るものがいる。理解しがたいことだが、この鳥にとって嵐は、逃れるべき脅威ではなく、次の食事にありつくための切符なのだ。
食物を求めて最長1万2000kmを飛行
デゼルタスミズナギドリ(Pterodroma deserta)は、北大西洋上にあるブージオ島だけに生息する、世界でもひときわ数の少ない海鳥の1種だ(ブージオ島は、ポルトガル領デゼルタス諸島の中にある無人島)。確認されている繁殖ペアが200組に満たず、絶滅危惧II類に指定されている、このカラスほどの大きさの鳥は、まさにレジリエンス(柔軟な適応力)の驚異だ。
屈強なクライマーにしか近づけないブージオ島の険しい断崖は、天然の要塞として機能し、捕食者や人間の干渉からデゼルタスミズナギドリを守っている。だが、その孤立した環境は、個体群のもろさを際立たせてもいる。この鳥たちは、たった一つの隔絶された場所に頼って生き延びなければならないのだ。
デゼルタスミズナギドリの身体は、驚くような耐久性とデザインを備えている。流線形の体、先が細くなった長い翼、軽量の骨格は、海での生活に完璧に適応したつくりになっており、広大な外洋を比類のない効率で滑空できる。こうした適応が、デゼルタスミズナギドリを長距離飛行のチャンピオンにしている。
繁殖期のあいだ、デゼルタスミズナギドリは、定期的に最長1万2000kmにおよぶ採食の旅に乗り出し、小型の魚、イカ、甲殻類を求めて大西洋を横断する。だが、その目覚ましい旅も、この鳥の持つ能力全体からすれば、ほんの一部にすぎない。
嵐の目のなかで食べものを探す
ほとんどの海鳥が嵐を避ける一方で、デゼルタスミズナギドリは正反対のことをする。ウッズホール海洋研究所(WHOI)の実施した研究で、数年にわたってデゼルタスミズナギドリを追跡した結果、その驚くべき行動が明らかになった。
この研究の知見は、科学者たちを仰天させた。
追跡したデゼルタスミズナギドリのほぼ3分の1が、能動的に低気圧に向かって飛行し、ときには数日にわたって数千kmも嵐を追いかけることもあったのだ。このデータから、デゼルタスミズナギドリが嵐のあとの混乱に乗じて利益を得ていることがわかった。
低気圧の通過後は、海面温度が急落し、海水が攪拌されることで、栄養豊富な深層の水が上昇する。こうした海の攪拌をきっかけに植物プランクトンが大繁殖し、それがデゼルタスミズナギドリの獲物たちを、捕まえやすい浅い水域へと引き寄せる。
デゼルタスミズナギドリは、暴風と闘ってケガのリスクを冒すのではなく、むしろ嵐のへりに沿って巧みに飛行し、変化した海の状況を利用して食事にありつくのだ。
この鳥の大胆な戦略は、環境の手がかりを読む能力に支えられている。科学者によればデゼルタスミズナギドリは、低気圧による風や波が生む超低周波音を利用して、数百km先から嵐の位置を特定している可能性があるという。
低気圧の位置を特定したら、デゼルタスミズナギドリは一貫したパターンの動きを見せる。嵐に向かって飛び、対地速度(地上から見た移動速度)を遅くしてエネルギーを節約し、嵐のうしろにとどまって、採食の機会を長くするのだ。



