米Anthropic(アンソロピック)のダリオ・アモデイCEOは5月、ニュースメディア「アクシオス(Axios)」においてシリコンバレーの内外に激震を与えるような警告を発した。同社のClaude 4発表から数日後のことだ。続いてCNNのインタビューでも、人工知能(AI)が今後5年以内に、新卒者や実務経験がほとんどない人、単純な事務作業や補助業務を担当するホワイトカラー職の最大50%を自動化する可能性があると予測した。
彼の警告は、大胆な予測に慣れている業界にとっても衝撃的だった。一部関係者や研究者の密やかなコメントなどではなく、実際にAIチャットボット(Claude)を手がけるAI企業のトップによる公的な発言だったからだ。ニュースメディアで拡散され、さまざまな議論に火を付けた。特にCNNは、こうした発言に対し懐疑的な視点を示し、「このような悲観的な予測が、かえって企業経営者など社会の危機感を煽り、結果的に現実化してしまうのではないか」と問いかけた。アクシオスなどのメディアは、キャリアの初期段階の若者たちが、自分たちの仕事が自動化に脅かされる現実を実感し始めていることを強調した。
「この事態は、人々が考える以上のスピードで現実になる」とアモデイは語り、AI業界で密かに高まり続けてきた懸念を代弁した。大学を出たばかりの若者や、若手の社員、そしてようやく自動化に着手し始めた企業にとって、この発言は警告や予測の域を超えた「カウントダウン」のように響いた。
だが、この予測は正しいのだろうか?
通信業界、ソフトウェア、企業全体の情報システムやITインフラを担うエンタープライズ・アーキテクチャの専門家は、より複雑な現実を想定している。AIは確かに、かつてない速さで仕事のあり方を変えつつある。しかし、これはAIによる雇用の喪失・AIによる失業というネガティブな側面だけを切り取った、単純化されすぎた見方だけに収まる話ではない。働くということの意味が問い直され、過剰な期待や不安が渦巻くなかで、「機械」がいまだに再現できていない、「人間」だけのスキル・価値が改めて注目されている。
かつてないスピードの変化
「かつての産業革命や技術革新の時代においても、雇用の喪失は起こっていた。これは何度も繰り返されてきた現象だ」と、CiscoのフィールドCTOを務めるアンディ・トゥライは筆者の取材に語った。「だが、今回異なるのはそのスピードだ。AIというテクノロジーのハイプ・サイクルは、これまでにない速さで進行している」。
LeapXpertの創業者兼CEOのディマ・グッツァイトもこの見解に同調する。「我々はいま、かつてないスピードで進む労働市場の変革期に入っている。かつての自動化は数十年単位で起こっていたが、今では四半期ごとのペースで進んでいる」と彼は指摘した。
つまり、AIという技術そのものが本質的に新しい訳ではない。だが、大規模言語モデル(LLM)といった研究段階での技術的ブレークスルーから企業導入に至るまでの期間が、これほど短縮されたことはかつてなかった。クラウド前提のアーキテクチャ、複数のサービス同士をつなぎ組み合わせることが前提のAPIファーストのモデルにより、新たなツールをわずか数カ月で企業全体に展開することを可能にした。また準備が整っていない企業でさえ、「取り残される恐怖(FOMO)」によって業務フローにAIを組み込むよう駆り立てられている。
AI分野では多くの物事が急激に起こり進んでいるため、2000年代初頭にモバイル機器が普及したとき以上に大きな混乱が起きるのは避けられないように感じる。だが、AIによるイノベーションには、FOMOに満ちた破滅的ななメッセージ以上のものがある。CNNビジネスのアリソン・モローが論じたように、「ホワイトカラー職の大量失職」というテーマは、商業的・戦略的な意図が込められた、AIに関する誇大宣伝を絶え間なく生み出す仕組みの一部だろう。



