AIと人間が協働する、ハイブリッド型アプローチ
「AIと、ファイアウォール役の人間が必要」という傾向が最も顕著に表れているのが通信業界だ。この分野のソフトウェア企業Oculeusの創業者兼CEOのアーンド・バラノフスキーは、AIが不正検知に欠かせないツールになった一方で、人間の判断も依然として重要だと語る。
「AIを使えば、通信事業者は、人間には不可能なほど膨大な量のトラフィックを分析できる。だが、詐欺師が予測不能な手口を使ったときに、その変化を察知できるのは人間だけだ。これには想像力が必要で、AIに欠けているものだ」と彼は言う。
また、AIに頼りすぎることのリスクもある。バラノフスキーは「不正対策チームを性急に縮小すると、不正を阻止する能力が低下するというリスクを冒す」と警鐘を鳴らす。そんな中、AIが分析を担い人間が戦略を考えるという「ハイブリッドアプローチ」が、今やさまざまな業界で新たなスタンダードになりつつある。
LeapXpertのグッツァイトによれば、AIは確かに、定型的な作業(ルーチンワーク)が多い業務、新卒者や若手社員向けの初級レベルの業務を代替しつつあるが、同時に3分の2の企業がAI関連の新たな職種を追加すると予想しているという。これによって私たちは、人間にしかできない、付加価値の高い仕事に集中できるようになる。実際、「先進的な企業は、AIによって強化されたチームを作り上げており、そうしたチームはより生産性が高く、成果や品質が安定していて、顧客志向も強い。彼らは単なるAIツールの導入・使いこなしでは満足せず、さまざまなAIツールとその機能をどう組み合わせれば、組織・企業全体にわたる成果を最大化できるか理解している『人材』への投資を進めている」とグッツァイトは指摘した。
Snowflakeでコアデータプラットフォームを率いるアルティン・アヴァネスにとっても、AIは「仕事を奪うもの」ではないという。彼は現在の状況を、Snowflakeが台頭した当時と重ね合わせてこう語る。「私たちは、従来のビジネス・インテリジェンス(BI)チームのあり方を変えた。ビジネスユーザーがIT部門の手を借りずに自分で分析できるようになったことで、一部の職は消えたが、ほとんどの職は形を変えて進化した。今起きているのも、それと同じことだ。AIは人間を排除するのではなく、人間の役割を変えていく」。
アヴァネスが懸念しているのは、雇用の喪失ではなく、組織の「準備不足」だ。「AIの導入の最大の障壁は人材ではない。それはインフラだ。適切なデータに、安全かつコンプライアンスを守った形でアクセスできなければ、どれだけ賢いAIでも機能しない」


