「コスト削減」が生みかねない、見えないコスト
後払いサービスで知られるフィンテック企業Klarnaは、2024年に700人のカスタマーサポート職をAIチャットボットに置き換えて注目された。しかし顧客がAIよりも人間のサポートを好むことに気づき、2025年初頭にはその一部を静かに復職させた。
顧客が人間を好んだ理由は? 専門家が繰り返し警告しているように、ボットは完璧ではなかったからだ。
多くの企業はシニア層の人員を削減し、AIを使える中堅人材でその穴を埋めようとしている。だがKlarnaのように、それが常にうまくいく訳ではない。「現時点での成果はまちまちだ」とCiscoのトゥライは指摘する。「振り子はいつも大きく振れるものだ。企業はコスト削減の魅力に惹かれ、企業内に蓄積された暗黙知といった知見、戦略的な洞察・判断力を見落としてしまう」。
また人件費が削減できても、AI自体や顧客離れによる「見えないコスト」が生まれることもある。生成AIツールは、ハルシネーション、過去の経緯をもとにした一貫性のある対応、コンプライアンス・法令遵守に今もなお苦戦している。そして金融や医療のような業界では、こうした欠陥は単なる不具合といった扱いでは済まされず、重大な法的リスクを引き起こす。
いま業界で関心を集めているもうひとつの懸念点は、「職が失われるかどうか」ではなく、「どんな人がその職を維持できるのか」だ。「熟練したスキルを持つデジタル人材は、経験は浅いがAIの習熟度は高いという人材に取って代わられる可能性がある」とトゥライは指摘した。つまり、AIの普及によって生まれているのは、「AIツールの習熟度」が人材の価値を決めるという新たな格差だ。そして、AIの進化のスピードは、学位中心の教育が追いつけないほど速い。
しかし、これに対してトゥライは、AIで一部の人間の役割を補おうとする動きについて注意を促している。「一見するとコスト削減に見えるが、かえって裏目に出る可能性がある」と言う。ビジネスリーダーは、準備もなくAIに飛びつけば、最終的にはプラスどころか壊滅的な事態を招く可能性を心に留めておく必要がある。
現在企業に求められているのは、イノベーションと慎重さの適切なバランスだ。確かに、すぐにでも自動化できる業務はあるはずだが、それによって生じる潜在的なコストや影響を冷静に見極めなければならない。LeapXpertのグッツァイトが指摘するように「戦略なき自動化は危険」なのだ。彼は、「AIに対して、人間によるファイアウォールが必要」な規制が厳しい業界に特に当てはまると付け加えた。


