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2025.07.14 12:30

日本最大級のディープテック系VC「UTEC」、500億円規模の新ファンドを組成

東京大学(yu_photo / Shutterstock.com)

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日本のベンチャーキャピタル(VC)である東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)が7月11日、サイエンスやテクノロジー領域に特化した「UTEC6号投資事業有限責任組合(UTEC6号ファンド)」の組成を完了したと発表した。運用資産は最大500億円規模となる見込み。これにより、UTECのファンド運用資産総額は、2004年創立からの累計で1300億円を突破した。

同社は新たなファンドを通じ、ヘルスケア・ライフサイエンス、情報技術、物理科学・工学といったディープテック分野のスタートアップに対して、1社あたり累計10〜30億円規模の投資を行う計画だ。また、投資先はシードおよびアーリーステージの企業を対象としている。

「私たちはあらゆる機会に対して非常にオープンだ」と、UTECのマネージングパートナー兼CEOの郷治友孝はビデオインタビューで語った。「当社は、東京大学のような学術機関と深いつながりを持ちながらも、民間VCとして世界中の機関投資家から資金を集めている。そのため、良好なリターンを期待できる高成長が見込める案件を探している」。

日本最大級のディープテック系VC「UTEC」

2004年設立のUTECは、日本最大級のディープテック系VCのひとつだ。150社以上の投資先を持ち、その多くは大学などの学術機関を母体とする、もしくは出資を受けたスタートアップとなっている。これら投資先には、2013年に上場した時価総額約2160億円のペプチドリームや、2023年に米モデルナに8500万ドル(約125億円)で買収されたオリシロジェノミクス(OriCiro Genomics)などが含まれる。

科学者である創業者とともに共同で事業を創る

「当社の取り組みがユニークな点のひとつは、投資先事業の経済価値を測る(デューデリジェンス)だけではなく、科学者である創業者とともに共同で事業を創ることにも主眼を置いている点にある」と郷治は説明した。UTECは、会社の設立前のスタートアップを発掘し、創業者候補らに対して人材採用や海外展開支援、ガバナンス体制の整備などのサポートを行っている。

UTECの投資戦略は、大学、研究機関、産業界のパートナーから生まれる科学技術のイノベーションを起点としている。UTECの投資活動の大半は日本国内で行われているが、米国、インド、東南アジア、欧州のスタートアップにも投資しており、日本企業の海外展開を支援すると同時に、海外のスタートアップの日本進出も支援している。

「有望なスタートアップの案件や技術の種が持ち込まれた場合、私たちはそれを人工知能(AI)とデータサイエンスを活用して評価する独自の仕組みを構築している」と、UTECのマネージングパートナー兼COOである坂本教晃は述べている。同社のデューデリジェンスのプロセスの一環であるこの仕組みは、学術論文や研究成果を分析して有望な技術や研究者を見つけ出し、引用ネットワークの解析を通じて「スタートアップ化の適性」を評価する。

高齢化や労働力不足、AI技術を伝統的な産業に応用しようとするスタートアップに注目

坂本によれば、UTECが注目しているのは、高齢化や労働力不足といった世界的な課題に取り組む企業、AI技術を伝統的な産業に応用しようとするスタートアップだという。また、ライフサイエンスとヘルスケアの分野では、特に治療法が確立されていない疾患(アンメット・メディカル・ニーズ)に挑む創薬関連の企業、大きなリターンが期待できる治療デバイスを含む医療機器分野を重点的な投資対象としている。

日本政府によるスタートアップ支援強化の動き

今回の新ファンドの立ち上げは、日本政府がスタートアップのエコシステムの強化に乗り出したタイミングと重なった。日本の石破茂首相は昨年10月、「日本をアジア最大のスタートアップ拠点とする」という政権の目標を発表し、中小企業技術革新制度(SBIR)や2022年に発表された「スタートアップ育成5か年計画」などの既存政策を基盤とした取り組みを進めている。日本はこの計画で、2027年までにスタートアップへの投資額を10兆円に引き上げ、ユニコーン100社、スタートアップ10万社の創出を目指している。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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