中国の習近平国家主席が人民元の基軸通貨化を目論むにあたって、よもやドナルド・トランプ米大統領ほど理想的な引き立て役を想定することはできなかっただろう。
2013年に習近平体制が本格スタートして以来、人民元の国際化は最優先課題とされてきた。推進に本腰を入れ始めたのは2016年、トランプが最初の大統領選に勝利する数カ月前のことだ。習はそれまで米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドで構成されていた国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)の通貨バスケットに人民元を加えることに成功した。
2017~21年の第1次トランプ政権時代は、ドルに逆風が吹いた。それでも政権幹部らは、トランプの最悪の衝動の多くに対してそうしたように大統領を説得して、繰り出される酷いアイデアのいくつかを阻止した。連邦準備制度理事会(FRB)長官の解任、ドルの切り下げ、米国債のデフォルトなどだ。
第2次トランプ政権には、1期目のようなガードレールがほとんど存在しないことが証明されつつある。ジェローム・パウエルFRB議長の職はかつてなく脅かされ、トランプ関税とそれに起因するインフレの影響は、世界中の債券市場を混乱に陥れている。一貫性のない財政政策の結果、米国はAAA(トリプルA)の信用格付けをすべて失った。
トランプが敵味方を問わず脅しつけている包括的な「相互関税」は、「世界の基軸通貨としてのドルの役割を縮小させるプロセスの新たな一歩」だと、英調査会社エノド・エコノミクスのチーフ・エコノミスト、ダイアナ・チョイレバは指摘する。
その分析によれば、トランプの予測不能な言動とドルに取って代わろうとする他国、特に中国の取り組みが衝突し、ドルの準備通貨としての地位は低下しつつある。デジタル通貨、ステーブルコイン、国際決済アプリの人気の高まりも、IT革命以前のオールドエコノミーを支えた通貨の地位を侵食している。
ドルへの信頼を本格的に損なったのは、今年4月と5月に米国債市場を見舞ったミニ・パニックだった。トランプ関税のインフレへの影響を懸念する投資家の売りが殺到し、利回りが急上昇。市場の混乱はたちまち日本や中国など海外市場にも波及した。
この事態が、中国の「人民元を軸に独立した金融勢力圏を構築する積極的な試み」に弾みをつけたとチョイレバは言う。



