イスラエルとイランが6月、前例のない交戦「十二日戦争」を繰り広げるなか、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、自国の軍隊の大幅な増強に向けてせわしなく動き回っていた。外国製や国産の兵器の取得によって軍備を強化する取り組みで、かねて進めてきたことでもある。
「最近の情勢を踏まえ、中・長射程ミサイルの備蓄を抑止力が確保できる水準まで引き上げるための生産計画を立てている」。イスラエルがイラン各地の高価値目標に対する壊滅的な空爆作戦を始めてから数日後、エルドアンはそう表明した。
さらにこう続けた。「神の思し召しがあれば、われわれの防衛能力はそう遠くない将来、誰もわれわれに対して強硬に出ようとしなくなるほど強力なものになるだろう」
トルコはすでに防空システムや弾道ミサイルを保有している。エルドアンが言及した「防衛能力」は、トルコが開発中の多層型統合防空システム「スチールドーム」を指しているのかもしれない。いずれにせよ、トルコは今回の戦争を教訓に、弾道ミサイルの備蓄も積み増す必要があると確信した可能性がある。
トルコの現在の弾道ミサイル計画は1990年代にさかのぼる。当時、中国が短距離弾道ミサイル(SRBM)「B-611」のライセンス生産をトルコに許可し、これを通じてトルコは自国で弾道ミサイルを開発するための技術的知見を得た。トルコは2017年、国産SRBM「ボラ-1」を公開し、2022年10月と2025年2月にはより射程の長いSRBM「タイフン」の発射試験を黒海で行った。また2022年11月にはボラ-1の輸出版「カーン」について、インドネシアと契約を結んでいる。トルコはほかに「ジェンク」という準中距離弾道ミサイル(MRBM)の開発も進めている。トルコ語で「戦い」や「武勇」を意味するこのミサイルは、トルコの攻撃兵器の到達可能範囲を大幅に拡大するものだ。
トルコで弾道ミサイルの生産が増えれば、外国からもトルコ製SRBMへの関心が高まると見込まれる。とりわけ現在は、世界の不安定性が増すなか、軍備の拡充や近代化をめざす国が増えているだけになおさらだ。現状、中東で最大の弾道ミサイル備蓄を持つのはイランだが、その備蓄は今回の戦争によって大きな打撃を受けた。したがってトルコが弾道ミサイルの生産を増強すれば、いずれトルコの弾道ミサイル保有数がイランに並ぶ、さらには超えることも考えられなくはない。とくに、イスラエルが再びイランを攻撃すれば現実味は増してくる。また、ドローン(無人機)の場合のように、トルコ製の弾道ミサイルはイラン製の弾道ミサイルよりも多くの輸出契約を獲得する可能性もある。イランがこれまでに弾道ミサイルを輸出した相手はロシア1国にとどまっている。



