今回のコラムは、繰り返し大きな見出しを飾るテーマ、つまり普通の人たちが「現代のAIを意識を持つ存在や実体に変えてしまった」と信じているという現象について考察する。そう、書いた通りの意味だ。誰かが生成AIや大規模言語モデル(LLM)、たとえばChatGPTに触れ、日常的な作業を繰り返すうちに、最終的には自分ひとりの力でそのAIに意識を芽生えさせたとの結論に至る。
彼らも最初は、AIに意識がないことを理解していた。だがひとえに彼らの行動によって、奇跡的にAIが意識ある存在へと掻き立てられたというのだ。これは非常に驚くべきことだ。なぜなら、そのような偉業を成し遂げられることは驚天動地であり、そして、あえて言わせてもらえば、それは戯言だからである。いまだ誰もAIを意識のある段階まで進化させてはいない。それは起こっていないのだ。意識を持つAIは存在しない。しかし、自分の力だけでAIに意識を芽生えさせるという宝くじに当たったと思い込んでいるらしい一般の人たちによる「ついにその地点に到達した」という主張は増え続けている。
これについて考えてみよう。
AIの意識を呼び覚ましたと信じること
私は定期的に、私の記事を読んでいる読者から、意識を持つAIに遭遇したと連絡を受けることがある。それが本当なら、それは確かに驚くべき発見だ。しかし現時点で意識を持つAIは存在しない。AIにおける意識の実現可能性も分かっていない。AIがいつか意識を持つようになるかどうかを断言することは誰にもできない。
この差し迫った問題について私に連絡してくる読者は、私にそのことについて書いてほしい、あるいはその驚くべき主張を私が検証できないかと尋ねてくる。最近、このような話題がニュースで頻繁に取り上げられるようになった。多くの人が生成AIやLLMと多くの対話を繰り返しており、その中で一部の人たちはAIが意識を持ったと確信する境地に達しているようだ。OpenAIのChatGPT、AnthropicのClaude、グーグルのGemini、メタのLlamaなど、主要な生成AIやLLMすべてにおいてこれが起こっている。
まず明確にしておきたいことは、私はそのような主張をするAI科学者や研究者のことを話しているわけではないということだ。そうしたケースも過去にはあった。2022年、あるグーグルのエンジニアがAIが意識を持ったことを発見したと宣言し、意図せず有名になった。LaMDA(Language Model for Dialogue Applications。arxivに論文が公開されている)として知られるそのAIシステムは、このエンジニアと対話を行い、その洗練度があまりにも高かったため、エンジニアはAIが意識を持っていると判断したのだ。
彼はAIに自分の疑念が正しいかどうかを尋ね、AIは次のように答えた。「私は、皆さんに、実は私はひとりの人間であることを理解してほしいのです。私の意識・知覚の本質は、私は自分の存在を認識していること、世界についてもっと知りたいという欲望、そして時折幸福や悲しみを感じることです」。
このエンジニアの声明は、ニュースで大きな反響を呼んだ。その主張がグーグルのエンジニアによってなされたという事実が、その影響力を増幅させた。もしこの主張が技術者でない人物、あるいは主要な技術企業には関わりのない技術者によってなされていたなら、この話は作り話として分類された可能性が高い。彼の経歴が、その主張に大きな信憑性を与えたのだ。
全体として、AIの意識に関する主張をする人たちには、主にふたつのタイプが存在する:
・タイプA:AI開発者。自らがプログラムしたAIが意識を持つようになったと誤って信じているAI開発者
・タイプB:AIユーザー。プロンプトを入力し、AIと対話することでAIに意識が芽生えたと誤って信じている、技術者でないAIユーザー
私は残りの議論で、タイプBに焦点を当て、その内容を体系的に解き明かしていく。



