サイエンス

2025.07.14 18:00

生物の進化を二分したわずか30キロの海峡、生物学者が紐解く「ウォレス線」の謎

ウォレス線の西側に生息するカニクイザル(Shutterstock.com)

ウォレス線によって、進化のルートが変わった種も

カニクイザル(学名:Macaca fascicularis)は、ウォレス線の西側に生息する、適応力の高い霊長類の一種で、樹上生活に役立つ長い尾を発達させている。この種のサルは、タイからボルネオにかけての森林で生息しているが、都市の環境にもうまく適応してきた。

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カニクイザル(Shutterstock.com)
カニクイザル(Shutterstock.com)

一方、ウォレス線の東側、スラウェシ島に生息するウスイロマカク(学名:Macaca ochreata)は、より頑健な胴体と、カニクイザルより大幅に短い尾を持つ方向に進化した。これは、スラウェシ島の草木が生い茂った森や食料源の違いに適応したものだ。

ウォレス線によってすみかが分割されたことは、この2種のサルの行動にも影響を与えている。カニクイザルは、常に食料を得るチャンスをうかがい、人間が育てた穀物や人が住む集落を襲うことも多い。これに対してウスイロマカクは、人前にあまり姿を見せることはなく、スラウェシ島の森林の、ひと気がない場所にある食料源に頼っている。

生息域がおおむねスンダ列島に限定されているスンダガマグチヨタカ(学名:Batrachostomus cornutus)は、東南アジア側に生息する夜行性の鳥であり、かなり昔から続く系統に属している。草木の生い茂る熱帯雨林での生活に適した形で適応を遂げており、並外れたカモフラージュ能力によって、外敵に見つかりにくくしている。

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一方、ウォレス線のオーストラリア側に生息するオーストラリアガマグチヨタカ(学名:Podargus strigoides)とその近縁種は、別個に進化を遂げ、開けた森林地帯や、より乾燥した生息環境に適応した。

これらのガマグチヨタカの系統が分岐したのは、約3400万年前から2300万年前にあたる漸新世のことだ。ウォレス線を境にした脊椎動物の系統分岐として知られているなかでは、最も古い事例の一つだ。

この分岐がかなり以前に起き、その後も維持されていることは、スンダ列島の島弧と陸地の変形は、かつてはこれらの鳥の先祖が生息域を広げる道筋となったものの、その後の地質学的な変化を通じて、これらの種が孤立したことを示唆している。

見えない境界をまたいだ種には、何が起きるのか?

ウォレス線のどちらかの側で進化した多くの動物は、自らが生息している特定の環境に、絶妙なバランスで適応している。例えば、仮にトラが小スンダ列島に入り込んだなら、食料源として頼りにしている比較的大型の獲物がいない生態系で生きていくのに苦労するかもしれない。
 
しかし、ウォレス線をまたいでも問題なく繁栄できる種もあるだろう。競合する種や捕食者、あるは病気など、もとの生息環境にあった選択圧を逃れ、「入植者」として成功を収めた種は、新たな環境がもたらすチャンスを生かして繁栄する可能性がある。これは、多くの侵略的外来種が、新しい生息環境で個体数を増加させる事例と良く似た現象だ。

ウォレス線という生物地理学的境界にもいくつかの例外はあるが、陸生動物の仲間のなかで、この例外にあたる動物の一つがコウモリだ。大半の陸生動物の種と異なり、コウモリは飛行が可能なため、水域による障壁を比較的容易に乗り越えられる。

例えばオオコウモリ属に属するものなど一部のコウモリの種は、食料やねぐらを求めて長距離を飛行することが可能で、ウォレス線の両側で生息が確認されている。

forbes.com 原文

翻訳=長谷睦/ガリレオ

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