欧州

2025.07.12 12:00

英国とドイツが歴史的接近 欧州は「民主主義の最後の砦」になるのか

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どうやら、子どもの頃に集めた英国の航空冒険物語「ビグルズ」シリーズの本をすべて燃やし、漫画雑誌『イーグル』の古い号も処分しなくてはいけない時がやって来たようだ。英国とドイツが近々、一方が脅威にさらされた場合の相互援助条項を含む防衛条約に署名するという報道が出ており、敵対する立場に分かれがちだった両国の長い歴史に終止符が打たれようとしているからだ。英国の作家ジョージ・オーウェルが1940年のエッセイ『少年週刊誌』で論じていたような文学全体が、いまや決定的に時代遅れになりかけているのかもしれない。

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たとえば、スコットランドの作家でカナダ総督も務めたジョン・バカンの作品などはとくに、英独を「地政学的親友」にするこの条約によって古びてしまうかもしれない。キャプテン・W・E・ジョーンズのビグルズシリーズと同様、『三十九階段』をはじめとするバカンの作品も、英国人のヒーローがドイツ人の宿敵を打ち破るという構図に基づいているからだ。ちなみにバカンが巡らせた新たな趣向は、蠱惑的な女性の黒幕、ヒルダ・フォン・アイネムを登場させたことだった。彼女は、アイルランド人の容姿端麗な策士、ドミニク・メディナと並び、彼の作品において主人公リチャード・ハネイの好敵手として描かれている(『緑のマント』と『三人の人質』をぜひ読んでいただきたい)。

歴史を振り返ると、英国とドイツが同じ側に立ったこともなくはなく、その重要な瞬間のひとつは1815年のワーテルローの戦いだった。ナポレオンのフランス帝国軍と、英蘭などの連合軍およびプロイセン王国軍が戦った歴史的大会戦である。連合軍を率いたウェリントン公は、フランス軍の砲弾が降り注ぐなか、将校たちから命令を求められると、こう一喝したという。「最後の一兵になるまで踏みとどまれ。それ以外に命令はない」

ワーテルローの戦いの生存者のひとりに、ウェリントン公の副官ヘンリー・パーシーがいた。彼は戦いのあと、公爵の勝利の知らせを伝えるべく急いで本国へ向かったが、英仏海峡を渡っている途中、乗っていたスループ船(1本マストの縦帆式帆船)が無風で進めなくなってしまった。一行はオールを使った手漕ぎに切り替え、なんとかしてイングランドにたどり着いた。

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そうしてパーシーはロンドンに馳せ参じたのだが、実のところシティ(金融街)の多くの人はすでに戦勝を知っていた。それは、ロンドン・ロスチャイルド家の祖にあたる銀行家、ネイサン・メイアー・ロスチャイルドが組織した情報網によるものだったと言われる。ロスチャイルドはこの戦いで大きな富を築いたとされ、ここから「砲声が聞こえたら買え(Buy on the sound of cannons)」という金融界の格言が生まれたとも伝えられる。この逸話は、戦争における通信(現代で言えばソーシャルメディア)と金融の役割を示す好例だ。

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翻訳・編集=江戸伸禎

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