Acrewは設立から約5年半の間に約150件の投資
PitchBookによると、Acrewは設立から約5年半の間に約150件の投資を行ってきた。その中の成功事例としては、現在評価額110億ドル(約1.6兆円)で上場を計画中のフィンテック企業Chimeへの投資がある。この案件によって、Acrew共同創業者のローレン・コロドニーは、2025年版「フォーブスが選ぶ世界最高の投資家(ミダスリスト)」に選出された。また、もうひとつの投資先の不動産テック企業Divvyは、2021年にビル・ドットコムに25億ドル(約3675億円)で買収された。
一方、これまでに投資先の5社がすでに倒産している。2019年に最初の投資を行ったAcrewの第1号ファンドは、現在までの年平均リターンが8%となっており、2019年に投資を始めた同業他社のファンド群の中では平均より高いが、トップ層ではない水準(第3四分位)に位置している
多様性、公平性、包摂性は、今や人々が避ける話題
ただ、ベンチャー投資のリターンは通常10年単位で現れるため、Acrewの戦略の成果を見極めるにはもう少し時間が必要だ。また、新興のベンチャーファームが成功を収めるのは、数年前と比べて確実に難しくなっている。金利の上昇や世界規模の関税強化の懸念といった環境下では、資金調達そのものが困難だ。しかも、多様性を前面に出したビジネスに対する政治的な風当たりも強まっている。
「多様性、公平性、包摂性という言葉は今や、人々に避けられるものになっている」とジマーマンは言う。「そうした価値観や、それに資金を投じるという行動への支持は目に見えて後退している。だが、問題そのものは何も変わっていない」と彼は述べて、VC業界のリーダー層や投資家、創業者の多様性の欠如に言及した。
Acrew自身も、やや慎重な姿勢を取っているように見える。同社が10月に発表した新ファンドに関するリリース資料には、「ダイバーシティ」という言葉は明記されておらず、代わりに「データ&セキュリティ」や「フィンテック」分野の企業に対する同社の「仮説主導型アプローチ」への言及が強調されていた。同社はまた12月には、ヘルス分野の企業を対象とした新たな投資テーマを発表し、4月には「All In on AI」と題したレポートも公開した。
「最近のファンドは中身よりも、資金を集められるかどうかを優先して最適化している」と語るのは、独立系ベンチャー投資家のアンドリュー・チャンだ。今年初めに「VCにおけるDEIの失敗」と題したブログ記事を投稿した彼は、「VCはうまくいく流行に合わせて動く」と語った。
ゴウの成功が、VC業界における多様性を促す力になる
それでもAcrewは、自社のサイト上で創業チームの多様性を明確に打ち出しており、メンバーの55%が女性で、48%がアジア系・太平洋諸島系、14%が黒人・先住民・その他の有色人種に該当するとしている。Acrew共同創業者のコロドニーは、「ゴウの成功そのものが、VC業界におけるダイバーシティを促す力になる」と語る。
「若い女性、特にアジア系アメリカ人の若い女性にとって、ゴウのような存在が成功しているのを見ることはとても重要だ」と彼女は言う。ジマーマンも2022年のSNSの投稿でこう記していた。「テレシア・ゴウは静かに手本を示している。こうした事例をもっと公にしていけば、後に続く人がきっと現れる」。


