世界各国が取り組む脱炭素化への動きが、石炭からの転換を促している。それによって液化天然ガス(LNG)の需要は今後、世界的に増加するものとみられる。現在、増え続けている大規模データセンターへの電力源として、LNGが広く受け入れられていることも一因だ。
これは業界関係者にとっては心強い見通しだが、現在の予測では、LNGの生産量が必要量を上回る可能性があることも示されている。英石油大手シェルによると、2024年の世界のLNG取引量は4億700万トンに達したが、新規開発の制約により、前年からの増加分はわずか200万トンにとどまった。これは年間増加率としては過去10年間で最低だったが、シェルは2030年までに1億7000万トン以上の新規LNG供給が可能になる見込みだと説明した。
一方、市場では、2027年以降に供給が需要を上回り、価格が下落する可能性があるとの見方が浮上している。米銀最大手JPモルガン・チェースは、今後の市況を「構造的に供給過剰」と表現している。同社を含む米ニューヨーク・ウォール街の金融機関の多くや米ブルームバーグをはじめとする予測機関らは、新たなLNGプロジェクトの始動に伴い、2030年には供給が需要を6000万~6500万トン上回る公算が大きいとしている。
世界最大のLNG輸出国として台頭する米国
この増産の大部分は、米国によるものと考えられる。同国は2015年時点ではLNG生産量はゼロだったが、2024年には約9000万トンを輸出するようになり、世界最大のLNG輸出国としての地位を確固たるものにしている。同国は2030年までに、世界全体のLNG供給量の3分の1以上を生産するようになると見込まれている。競合するカタールとオーストラリアも、生産量を増やしつつある。
もちろん、将来何が起こるかを正確に予測するのは不可能だ。プロジェクトの遅延や制裁などにより、予想されていた供給過剰の水準が下がる可能性もある。例えば、仮に現在開発中のLNGプロジェクトが半年から1年遅れた場合、その累計生産量は後年にずれ込むことになり、最大2年もの差が生じる可能性がある。しかし、急増する需要が業界の期待を支え続けている。



