気候・環境

2025.07.17 15:15

地球上で唯一、陸地に接しない海「サルガッソー海」

Getty Images

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大西洋の遥か沖合、陸地の影すら見えない場所に、地球で最も独特ながら見過ごされやすい生態系のひとつが広がっている。フロリダの東、およそ950キロに位置するその「サルガッソー海」は渦巻く海流に囲まれた広大で陸地を持たない海域だ。世界中を見渡しても、このように海岸を持たない海は類を見ない。


生命に溢れる海の「ゆりかご」、生態系を宿して気候を安定させる

特に目視できる特徴はなく、船がサルガッソー海に入っても気づかないこともある。波しぶきもなく、鳥の姿もなく、ただ静けさだけが広がる。だがその穏やかさの水面下には、実は生命にあふれた海の「森」が潜んでいる。サルガッソーの名の由来である「サルガッサム(ホンダワラ)」と呼ばれる海藻が海面を覆い、小さなエビやカニ、蛍光色の魚、そして生まれたばかりのウミガメらの「ゆりかご」のような機能を果たしている。

これらの海藻のかたまりは小さな生態系そのものだ。科学者たちはここで100種類以上の無脊椎動物を確認しており、いくつかの大型動物もこの海藻に頼っている。孵化したばかりのウミガメは殻が固くなるまでこの海藻に身を隠し、サメや海鳥はその周辺を狩り場としている。アメリカウナギやヨーロッパウナギはこの海で透明な糸のような状態で生まれ、河川や他の海へと長い旅をし、何十年も後に産卵と死のために再びこの地に戻ってくる。

この海は、「生物のゆりかご」であると同時に、気候の安定装置でもある。季節による気温変化は海水をかき混ぜ、強力な海流を生み出す。その海流が大西洋を超えて熱や塩分、栄養を運び、両側の気候を安定させている。また、この海で育つプランクトンは大気中の二酸化炭素を取り込み、その炭素を殻に閉じ込めて海底へ沈む。いわば自然の「カーボン・シンク(炭素の貯蔵庫)」としても機能しているのだ。

しかし、この静けさは年々危うくなってきている。4つの海流が集まることで、海洋ごみがここに漂着し、サルガッソー海の一部は「浮かぶゴミ捨て場」と化してしまっているのだ。プラスチックごみや漁網の破片、マイクロファイバーが渦を巻き、巨大な貨物船のスクリューが海藻を引き裂き、騒音や化学物質で海の生態系を乱している。

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