サイエンス

2025.07.16 14:15

物理学者ら「時間ミラー」の存在を捕捉か。「時間を遡る波」実用化への期待

Getty Images

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何十年もの間、物理的解釈における科学者が「タイムミラー」または「時間反射」と呼ぶ時間の逆転は理論物理学の周辺領域にとどまっていた。まるでSF映画の一場面のようなコンセプトだ。波が時間をさかのぼって進み、周波数がリアルタイムで反転し、反射の法則が奇妙な方向にねじ曲げられる。

だがニューヨーク市の研究チームが、この仮説を「測定可能な現実」として発表した。


「鏡を見て、自分の顔ではなく後頭部が映っているようなもの」

CUNY大学院先端科学研究センター(ASRC)のフセイン・ムーサ博士率いるグループは時間反射が実際に可能であり、現代の技術でも実現できることを示す画期的な実験を行った。

基本的に、タイムミラーは通常の鏡のように光や音を「空間的に反射」するわけではない。波を「時間的に」逆方向へ進ませるのだ。この現象は長らく理論上のものとされてきたが、ここまで明確に観測されたのは初めてだ。

研究者らは「鏡を見て、自分の顔ではなく後頭部が映っているようなものだ」と説明している。この種の反射は、波が伝える媒質が突然かつ均一に性質を変化させるときにのみ発生するという。

研究チームは、電磁波を操作できる特殊な人工素材「メタマテリアル」を使い、自然界の物質では実現できない方法でこの状態を作り出した。

キャパシタバンク(コンデンサ群)と高速スイッチを備えた金属製ストリップ上の電子部品を調整することで、電気の流れに対する抵抗(インピーダンス)を高速かつ均一に変化させた。この変化が瞬間的なエネルギーの増加を引き起こし、波が時間的に反転する。つまり、信号の逆再生版が過去へ向かって送り返されることとなった。

50年以上にわたり、科学者らは劇的な環境変化が波の時間反転を引き起こす可能性があると考えてきた。しかし、システム全体にわたって均一かつ高速な変化を生み出す技術が長年の壁となっていた。

過去の実験がうまくいかなかったのは、スイッチングのばらつきや、波が進む環境を完全に制御できなかったことが原因だった。ムーサ博士のチームが成功できた最大の要因は、ある決定的なタイミングでインピーダンスを2倍にしたことである。この操作が、波を時間的に反転させる「引き金」となった。

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Wonderfulengineering 翻訳=坂口オスウェル大芽 編集=石井節子

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