マーケティング

2025.07.15 13:30

本音や動機はヒントの宝庫。顧客インサイトが生む「選択肢」

潜在ニーズよりももっと深くにある顧客インサイトをどう掴むのか。大企業の例から生かし方を考える。マクアケ創業者による好評連載第54回。


近ごろ、大手企業の多くが、顧客インサイト(顧客自身も言語化できていない隠れたニーズ)を分析し、商品企画に生かす手法に力を入れている。飲料メーカーやスポーツ用品メーカー、ショッピング施設のディベロッパーに至るまで、2020年前後から、社内にもともとあったマーケティング部門などから顧客インサイトをつかむ専門チームを組織する流れが強まっており、それらが実を結び始めている。

例えば、ある大手飲料メーカーは、データ分析からペットボトルの紅茶が冬には売れるが、夏には売り上げが伸びないことに逆説的な商機を見いだそうとしていた。そこで、顧客インサイトをつかむ専門チームが、消費者に総量的なアンケートやN1調査(顧客一人ずつへの深いヒアリングや観察)を行い、夏に売れない理由と何があれば売れるのかを解き明かしていったそうだ。それによれば、紅茶はティーカップで飲む温かい飲み物で、商品名そのものにも「甘い紅茶」の印象があるという、ブランドとしては否定したくなるような直感的なイメージをもっている顧客が少なくないことがわかった。チームはこうした消費者の定性的な意見を定量的に分析し、これらのインサイトから「無糖アイスティー」を押し出した商品やパッケージでプロモーションを行ったところ、夏の売り上げが見事に伸びたそうだ。机上の空論ではなく、顧客インサイトの実態や事実に基づいた、見事な分析だと思う。

また、大手のスポーツ用品メーカーもランナー用のハーフタイツの開発にインサイトを活用した。ランナーにはオリンピックや世界陸上を目指すようなトップアスリートだけでなく、趣味として楽しむ市民ランナーも多くいる。もちろんトップアスリートと市民ランナーのニーズが同じとは限らない。日経クロストレンドの記事によれば、このメーカーはさまざまな層のランナーに調査を行い、トップアスリートと市民ランナーの間に違うインサイトがあるとわかったそうだ。それは「給水」である。トップアスリートは給水所に用意されたドリンクを比較的取りやすいが、市民ランナーは取れない場合もあり、水分補給できるパックなどを自分でもちながら走る必要がある。そのインサイトをうけてポケットつきのランニングタイツを開発したところ、ヒットした。

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文=中山亮太郎 イラストレーション=岡村亮太

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