1on1は業務進捗の確認だけでなく、部下のキャリアや価値観に触れることで信頼関係を深め、エンゲージメントを高める強力な施策です。しかし実際の現場では「詰めの場」や「形式的ミーティング」に陥り、逆にストレス要因となるケースも少なくありません。
筆者も産業医としてそうした相談を受けるたびに、1on1の運用の難しさを痛感しています。本資料では歴史と課題を整理し、成功事例から今後求められる1on1の姿を探ります。
1on1の歴史と目的
まずは、「1on1」のなりたちについておさらいしておきましょう。
1on1の概念は、Intel社におけるマネジメント手法にさかのぼります。Intelの元CEOアンドリュー・グローブが著した『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』(1983年)では、部下との定期的な1対1ミーティングを「マネジメントの中核」として位置づけました。その後、シリコンバレーのIT企業を中心に「心理的安全性」を重視した人材育成手法として広まり、2010年代以降、日本企業でも広く導入されるようになりました。
1on1の目的は「信頼関係の構築」、「部下の成長支援」と「相互理解とフィードバック」にありますが、実際には様々な課題が目立つように思えます。このような課題を意識し、目的共有・上司スキルの向上・信頼構築・時間確保・指摘と承認の5要素を整えることで、1on1は強力なレバレッジとなり、エンゲージメントの向上や離職率の低下、チーム力の強化といった波及効果が生まれます。
よくある5つの課題
次に、1on1運用における主な課題を、以下にみていきましょう。
1.目的が不明確
1on1は本来、信頼関係構築や成長支援の場であるはずが、目的が曖昧なままでは進捗報告の場となり形骸化します。「実施すること」自体が目的となる場合、対話の内容が具体性に欠けることや、部下にとって有益な時間とならない場合があります。上司と部下で「何のためにこの対話をするのか」を共有することが重要です。
2.上司のスキル不足
部下の話を一方的に聞くだけで終わったり、解決策を押し付けたり、あるいは部下の話を引き出せなかったりすることは、1on1の効果を半減させてしまいます。1on1の成功は上司のスキルに依存しますので、コーチングや傾聴に関する研修の機会を提供し、上司を支援する必要があります。
3.信頼関係の欠如
日頃の声かけ、雑談を通じたお互いの理解、感謝を伝えること、承認とフィードバックなど、日常の積み重ねの行動の結果として信頼完成は形成されます。心理的安全性が担保されていない場では、部下は評価を恐れて無難な発言しかできず、本音や悩みは表出されません。上司も「反応が薄い」と感じて指示口調が増え、悪循環を生んでしまいます。
4.時間確保の問題
多忙を理由に実施が後回しになるケースは少なくありません。しかし1on1は「緊急ではないが重要」な活動です。頻度を下げたり時間を短縮したりすると、部下は「自分は重視されていない」、「形だけの1on1は不要」と感じてしまうでしょう。時間の捻出そのものが、部下へのリスペクトであると心得てください。
5.「詰めの場」化
パフォーマンス指摘が中心になり、1on1が対話ではなく「叱責の時間」に偏ると、上司が一方的に質問攻めをし、ミスを細部まで掘り下げて糾弾するスタイルに陥ります。まずは相手の状況や考えを丁寧に聞く姿勢が求められます。まず事実を確認し部下自身に原因と対処を考えさせる。その上で支援策を提案し、次回までの行動を合意形成するプロセスが重要です。



