コストを度外視しているようで、実は地に足が着いている。同社は高価であっても長く愛用できる服こそがサステナブルであるという信念から、大量生産・大量廃棄からは距離をおく。デザインは生地の選定からはじまり、その8割がイタリア製だが、環境を配慮する取引先であるかはますます考慮するようになったという。また、日本の品質や美意識に関心が高まるなかではあるが「手を広げると質が落ちる」と、海外展開にも慎重を期す。
年2回のショーが特別な理由
アトリエと並んで同社を特徴づけるのが、年2回のファッションショーだ。3月某日、TAE ASHIDA 2025-26年秋冬コレクションが華やかに幕を開けた。プレスや各界の著名人、インフルエンサーだけでなく、各国駐日大使も参列するのは、父の時代から受け継がれる同社のスタイル。LEDを駆使したモダンな演出のランウェイには冨永愛の長男、Akitsugu Tominagaも登場し、視線を集めていた。
1日3回、約1500人が来場するショーには、全国各地の顧客も招かれる。受付ではスタッフが親しげに声をかけ、顧客を席へとエスコートする。会場全体を、心地よいホスピタリティの空気が包む。外部委託が主流のなか、企画から運営までほぼ自社で手がけるという徹底ぶりだ。
「いち早く顧客に新作を見せて、心から楽しんでいただきたい。通常ファッションショーはバイヤーやプレスのために実施されるものなのでよく驚かれますが、私たちにとっては当たり前のこと」とブレない。
光が当たらぬ、客席の最後列。従業員がずらりと並び、まるでわが子の門出を見守るかのように、ステージを温かい眼差しで見つめていた。舞台裏では、入ったばかりの新人もショーの運営を支える。新作約50ルックの披露を終えると、芦田多恵が姿を現し、顧客に深々と一礼する。メゾンが一体となり、ショーをつくり上げる。そこには、企業という枠を超えた、大きな家族のような絆が息づいている。
経済合理性を優先し、無駄を徹底的に排除する経営スタイルも多い現代。長期的な視点に立ち、顧客と従業員を大切にする経営を貫く企業は、もう少数派なのかもしれない。しかし、芦田 淳は、こうメッセージを残している。「たとえ、人通りの少ない道であろうとも、信じる道を進め」と。
代官山のアトリエでは、芦田多恵と職人たちが今日も慌ただしく手を動かしている。来春のコレクションの準備は、もう始まっているのだ。
芦田多恵◎東洋英和女学院小学部・中学部卒業、スイスのル・ローゼイ高校を卒業後、米国のロードアイランド造形大学アパレルデザイン科を卒業、芸術学士号を取得。1991年にコレクションデビュー。「ジュン アシダ」のクリエイティブディレクター、「タエ アシダ」のデザイナーを務める。第54回FECJ特別賞、令和6年度文化庁長官特別表彰を受賞。


