LLMで広告とEコマース活性化へ
そしてカカオは、OpenAIのChatGPTを支える大規模言語モデル(LLM)を活用することで、同社のスーパーアプリ上でのユーザーの滞在時間を延ばし、同時に消費額を増やすことを狙った一連のサービスを開発している。「当社のAIモデルは、最強のモデルを競うベンチマークテストおいて成績が頭打ちになっていた。そこで私たちは、コスト効率を重視したより実用的なアプローチを選ぶことにした」とチョンは語る。
カカオがOpenAIの技術を活用して開発したAIエージェントは、同社のデジタルエコシステム内で、人間の介入を最小限に抑えつつ、自律的に計画を立てて実行する可能性を秘めている。たとえば、カカオトークのユーザーに代わってレストランを予約したり、カレンダーに予定を追加したり、タクシーを手配して食事代を支払ったりできる。このような定着率を高めるサービスによって、カカオの主要な収益源である広告がユーザーのチャットやチャンネルにより多く届くようになるとチョンは見ている。「AIは私たちの中核事業の中でも、特に広告とEコマースを強化する」と彼女は語る。
広告は昨年のグループ収益の15%を占め、Eコマース事業は11%を占めていた。カカオは、カカオトークのユーザー間で贈られるギフト1件ごとに最大8%の手数料を得ている。同社によれば、チョコレートやビタミン剤、化粧品、衣類など、1日平均60万件のギフトがモバイルバウチャーとしてカカオトーク上で贈り合われており、それらは提携するレストランや小売店で引き換えるか、プラットフォームのギフトショップの注文で利用可能だ。
「現在ネット企業の主要な収益源となっている広告ビジネスは、AIベースのサービス導入によりダイナミックに変化していくだろう」と、キウム証券のソウル拠点アナリスト、キム・ジングは述べている。彼はまた、AIエージェントサービスを含むB2Cベースのサブスクリプションプランが急速に普及すると予測する。「このプロセスにおいて、カカオはOpenAIとの連携を通じて持続的な成長を確保し、企業価値を一段と高めることができるだろう」とキムは語った。
AIエージェントの「Kanana(カナナ)」
カカオは、OpenAIの技術を用いた初期のプロダクト群のひとつとして5月初旬に、AIエージェントの「カナ」と「ナナ」を搭載した新たなスタンドアロンのメッセージングアプリ「Kanana(カナナ)」のクローズドベータ版をリリースした。このアプリは、OpenAIのGPTと、同社独自の小型言語モデル(SLM)を搭載し、ユーザーの個人のチャットやグループチャットでの質問の応答、会話の要約、イベントの時間調整、最新情報の共有などを支援する。カカオはこれまでの投資額を明かしていないが、AI関連のプロジェクトに約400人、すなわち全社員の1割が従事していると認めている。
「日常的なユースケースであれば、大規模言語モデル(LLM)に投資する必要はない」とチョンは語る。LLMは開発に数億ドルと数年の歳月を要する一方で、SLMは訓練や運用のコストが低く、ユーザーの問いに「ハルシネーション」と呼ばれる誤った回答を返すリスクも少ないという。また、クラウドへの接続を必要としないため、サーバー侵害といったセキュリティリスクにも強いとチョンは付け加えた。
カカオは、単純なタスクにはSLMを用い、より複雑で段階的かつ連携の必要なアプリケーションにはOpenAIの強力なLLMを活用する戦略を取っているとチョンは説明する。これはアップルが採用している戦略と同様で、同社は簡単な問いには独自のLLMであるApple Intelligenceによって動くSiriを用いており、より複雑な問いはChatGPTに委ねている。「AI分野ではすべての処理にGPUを使うのが当たり前になっているが、小さな推論タスクにも最も高価なチップを使うのが本当に合理的かどうかは疑わしい」とチョンは指摘した。
カカオは、11月にKananaのクローズドベータテストを完了予定で、同時期にOpenAIと同社が共同開発したAIエージェントの正式リリースを予定している。「バーチャルアシスタントが人間の代わりにすべての作業を自動でこなしてくれるようになれば、AIが何かを知らない人にとっても、格段に便利なものになる」とチョンは語る。「現状では、適切なアプリを見つけ出してそれらを開いて操作するという手間が必要だ。エージェント型AIは、そのプロセスをシームレスにする」
全社で進める「スリム化」
チョンは、テクノロジーへの注力と並行してカカオの会社全体のスリム化にも取り組んできた。その一環として、カカオは非中核事業の整理を進め、関連会社の数を過去2年間で147社から115社へと5分の1を削減したと述べている。そして現在進行中なのが、2014年に買収した国内で2番目に訪問者数が多いポータルサイト「Daum(ダウム)」のスピンオフ計画だ。同社は、Daumを切り離すことで、国内外のその他の事業、特にバンキングやエンターテインメント、デジタルヘルスケアに注力する計画だ。
一方、6月には、インターネット銀行部門のカカオバンクと、タイの金融大手SCBX(サイアム商業銀行の親会社)による合弁会社が、タイ政府からバーチャルバンク設立の承認を受けた。韓国の銀行が同国で営業を行うのは25年ぶりのことという。さらに今年前半には、カカオエンターテインメントがファン向けコミュニティアプリ「Berriz(ベリズ)」のグローバル展開を発表したほか、カカオヘルスケアはソウル拠点の高齢者ケア系スタートアップ「Caring」と提携し、日本市場にも進出した。


