キャリア・教育

2025.07.10 13:30

仕事の報酬 五つの意味:田坂広志の深き思索、静かな気づき

Iryna Rahalskaya / Shutterstock.com

逆に、顧客中心の心を持たず、腕や人間を磨くことをせず、ただ「年収を上げたい」「昇進したい」と考える人材は、その安直な姿勢がゆえに、必ずと言って良いほど、壁に突き当たる姿も見てきた。

advertisement

このように、仕事においては、何よりも「目に見えない三つの報酬」を求めて歩むべきということが、筆者の「報酬観」であるが、もしこれを理解するならば、我々が、職場のリーダーや企業の経営者になったとき、必ず自らに問うべきことがある。

それは、「自分は、日々の仕事の中で、部下や社員に、この『目に見えない報酬』を、どれほど贈ってるいるだろうか?」との問いであり、深い縁あって共に歩む部下や社員は、「仕事に働き甲斐を感じているだろうか?」「職業人として、腕を磨き、能力を高めているだろうか?」「人間として、精神的に成長しているだろうか?」との問いである。

しかし、この問いを自らに問うならば、自然に、次の三つの問いが、心に浮かんでくる。

advertisement

「自分は、部下や社員に、仕事の志を本気で語り、働き甲斐を感じられるようにしているだろうか?」

「自分は、部下や社員が腕を磨いたとき、能力を高めたとき、心を込めて褒めているだろうか?」

「自分は、部下や社員に、人間としての成長が喜びであることを、後姿と横顔で伝えているだろうか?」

そして、この問いは、必然的に、さらに深い次の問いに結びついていく。

「自分は、この仕事を通じて、どのような社会貢献をしていくかという、明確な志や使命感を抱いているだろうか? 志を失っていないだろうか?」

「自分は、部下や社員が褒められて喜ぶような、高度な職業的能力を身につけているだろうか?」

「自分は、何歳になっても、人間として成長し続けているだろうか? 成長を忘れていないだろうか?」

この三つの問いは、いずれも厳しい問い。しかし、その厳しさから逃げることなく、この問いに正対したとき、日々の職場の風景が全く変わって見えてくる。

そして、そのとき、我々は、リーダーとして、経営者として、さらなる高みに向かっている。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。元内閣官房参与。全国8800名の経営者が集う田坂塾塾長。著書は『人類の未来を語る』『教養を磨く』など100冊余。tasaka@hiroshitasaka.jp

文=田坂広志

タグ:

連載

田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事