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2025.07.15 09:15

ハエの実験が示す組織論「多様性が進化を生む」

Getty Images

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多様性を重視せよと言われるが、価値観の違う人たちと仕事をすることに疑問を持つ人も多いだろう。しかし多様性には集団を強くする力がある。小さなショウジョウバエを使った実験でそれが明らかになった。

千葉大学国際高等研究基幹・大学院理学研究院の佐藤大気特任助教、高橋佑磨准教授による研究チームは、ショウジョウバエが敵に遭遇したとき、周囲の個体の行動に影響を受けることを発見した。ハエは天敵が近づくと恐怖反応により瞬間的に動きが止まる「フリージング」の状態となる。そのときの様子を観察すると、単独のときは強いフリージングを示すが、集団では自分よりも早くフリージングが解けた仲間を見て自分も動き始める「同調」的な行動が見られた。それにより恐怖反応が緩和されるという。

次に、遺伝的に単一系統のハエの集団に、別の系統を加えた混成集団を作り集団内の行動を調べた。ここではモニターにハエの動きを模した「バーチャルハエ」を映し出し、その上にハエトリグモを配置する。そしてクモの動きに合わせてバーチャルハエを操作して、どう動けばクモに襲われやすいか、またうまく逃げられるかを検証した。ハエのフリージング時間は個体ごとに設定されている。

すると、個体間のフリージング時間に多様性があり、かつ個体間で同調が生じる条件の場合、ハエはクモに襲われにくく、遠くまで逃げられることが判明した。ハエ集団は、多様な仲間の行動に同調する「相互作用」によって、より安全に生き延びることが可能になるということだ。

また研究チームは、こうした「多様性効果」と混成集団の遺伝子の多様性との関連を解析したところ、神経の発達に関与する遺伝子が検出され「神経機能の多様性が集団行動の創発性を生み出す可能性」が示唆された。創発性とは、たとえばビジネスの現場では、単独では生じず、集団になることで個々の足し算を超える大きな能力やアイデアが生まれる現象のことだ。まさに多様性の産物と言える。多様性はこうして集団を進化させる。排外主義ではクモに食べられてしまう。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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