それはさておき、デトロイトとその周辺のフリントのような都市の興隆と衰退には、数多くの要因が介在してきた。たとえば、移民の流入、富裕層の流出、技能や産業基盤の刷新の失敗、中国の製造業大国としての台頭による経済的な副作用などだ。
ミシガンのような州の人々が懸念しているのは、AI(人工知能)やロボットが、近年、グローバリゼーションの仕組みによってもたらされてきたと(バンスのような人たちに)認識されてきたのと同じような影響を、地元経済に及ぼすのではないかということだ。実際、米国ではこのところ、AIによって多くの雇用が失われると警鐘を鳴らす報道や報告が相次いでいる(たとえばPwCのリポートによれば、自律的に判断してタスクをこなす「エージェンティックAI」によって、ソフトウェア分野や法務分野でコストが最大40%削減されると見込まれている)。
筆者の直観では、新しいテクノロジーは必ずしも職を「奪う」のではなく、むしろそれを別の分野やバリューチェーン(価値連鎖)に移すのだと思う。そして、その過程は一般に、教育制度の質と政府の政策に左右されることになる。
AIが仕事に与え得る影響に関する研究(たとえばマッキンゼー・アンド・カンパニーによる研究や、とくに有名なものでは米マサチューセッツ工科大学のデビッド・オーターによる研究、英オックスフォード大学のカール・ベネディクト・フレイによる研究など)は総じて、単純に良い・悪いと割り切らない見解を示している。AIやロボットは能力の低い労働者が労働市場に参加する助けにもなる、ただ、そこではリスキリング(学び直し)が重要になる、といった見解だ。
こうした啓発的な見通しにも懸念される点はある。AIはほかの技術と比べて導入スピードが非常に速く、なかでも大手サービス企業ではその傾向が顕著なため、企業が労働者に対して持つ力が(そして賃金の下押し圧力も)大きくなる可能性があることだ。また、きわめて重要なAIプロジェクトが、少数の、つながりのある投資家たちによって所有されているという事実についても、十分な議論がなされていない。
新興国ではおそらく、AI導入のメリットが最も大きい分野は行政と医療(診断の質やアクセスの向上、診断できる病気の対象拡大などを通じて)になるだろう。一方、サービス分野の雇用は(とくにそのサービスが輸出されている場合)打撃を受けるかもしれない。


