かつてデトロイトは米国で最も裕福な都市であり、(1950年代初めには)世界で最も裕福な都市とも言われていた。しかしそれから50年の間に、米国で最も貧しい都市へと転がり落ち、2013年には米国の自治体として史上最大規模のデフォルト(債務不履行)という不名誉な事態に陥った。
8年前ほど前、筆者はデトロイトを訪れ、市の野心的な再生計画の始動を目撃した。マイク・ダガン市長が地元のビジネスリーダーたちの協力も得て進めているもので、たとえば保険会社の経営者であるダン・ギルバートは、人々に市に戻ってきてもらおうと、中心部のアパートを買い上げて無償で提供していた。
最近、デトロイトを再訪し、2日ほど滞在する機会を得た。ここに、その中心部の再生が実を結びつつあると報告できることをとても嬉しく思う。街は建設ラッシュに沸き、ランドマークの建物はきれいに修復されていた。おしゃれなレストランやショップもたくさんできていた。
最初のデトロイト訪問は、2つの理由でいまでもよく覚えている。1つ目は、米国の副大統領に出世する前のJ・D・バンスと一緒に講演を行ったことだ。筆者のテーマは、(デトロイトが参考にできる一例として)欧州の小国がどのようにして高い経済成長率と社会の一体性を実現したかというものだった。一方のバンスは、ミシガン州のような米国の“忘れられた”地域にこそ、政策や資源を集中的に動員すべきだと力説していた。
筆者とバンスの掛け合いは好評を博し、その後、ニューヨークの新しいワールド・トレード・センターでのイベントにも招待された。たしか当時のバンスは、ドナルド・トランプ米大統領に反対し、イノベーションを推進し、そして高等教育を強く支持する立場だった。それから多くのことが変わったけれど、彼の著書『ヒルビリー・エレジー』はいまでも読む価値がある一冊だ。
初めてのデトロイト訪問が記憶に残っている2つ目の理由は、西隣のディアボーンにあるフォード・モーターの工場を視察し、ロボットを基盤とした製造ラインの圧倒的な能力を目の当たりにしたことだ。その光景は時にけおされそうになるほどだった。今後10年、ロボットが米国の社会と経済に与えていく影響は、J・Dによる影響よりも大きいだろうと言ってしまいたいくらいだ。



