アート

2025.07.19 13:00

乗換駅を「目的地」に。アートで街を変えるトロント市の取り組み

カナダ・トロントにあるユニオン駅(Davslens - davslens.com / Shutterstock.com)

カナダ・トロントにあるユニオン駅(Davslens - davslens.com / Shutterstock.com)

文化の多様性で知られるカナダのトロントで、伝統的な美術館やギャラリーよりもはるかに強く人々の心を引き付けるようなアート体験が提供されている──通勤客などで混み合うユニオン駅が、ただ通り過ぎる場所ではなく、多くの人にとっての「目的地」に変化しているのだ。

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こうした変化は、偶然に起きたものではない。民間企業とアート関連の非営利団体の先駆的な取り組みによって、実現されたものだ。商業と文化は対立するのではなく一つになることで、より活気に満ち、身近で意義深い、アートと人々の出会いを提供することができるということを、証明している。

この変化に関わっているのは、ユニオン駅を管理するOsmington Inc.(オズミントン)と不動産開発大手のOxford Properties(オックスフォード・プロパティーズ)、キュレーションエージェンシーのMakeRoom Inc.(メイクルーム)、非営利組織のThe Remix Project(リミックス・プロジェクト)など。アートをより多くの人にとって身近なものにするとともに、社会において過小評価されてきた人々の声に、耳が傾けられるようにすることを支援している。

以下、企業がいかに都市の日常生活にアートを溶け込ませることができるかについて、新たな青写真を描いている各団体を紹介する。

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ユニオン駅(オズミントン+トロント市)

10年以上前、オズミントンが他社とのし烈な競争に勝ちぬき、ユニオン駅構内の小売店の運営などを請け負う事業者に決定したとき、同社のバイスプレジデント、サイマ・シャーは重大な責任を感じたという。

「ユニオン駅を『目的地』にすることが、市民としてのオズミントンの義務だと考えました」と話すシャーはさらに、「ユニオン駅を世界クラスの、誰もが利用しやすい場所にしたい」と考えている。

(The Bold Bureau / Shutterstock.com)
(The Bold Bureau / Shutterstock.com)

規制もある歴史的建造物のユニオン駅は、毎日およそ30万人が利用する交通ハブでもあり、どこにでもアート作品を飾れるわけではない。そのため、彼女とチームは構内を隈なく歩き回り、作品が安全に保たれ、尊重され、鑑賞され、そして(建物が持つ)遺産としての要素を損なうことがない場所を特定した。オズミントンは、建物の所有者であるトロント市との緊密な連携が必要なこのプロセスを通じて、「真の表現には信頼できるパートナーシップが欠かせない」ことを理解したという。

そして、それはキュレーションが専門のMakeRoom Inc.(メイクルーム)、アーティストをサポートする非営利団体、Nia Centre(ニアセンター)、同じく非営利団体で先住民と非先住民の市民の和解を推進するGord Downie & Chanie Wenjack Fund(ゴード・ダウニー&チャニー・ウェンジャック・ファンド)といった団体との協力関係の構築にもつながった。

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編集=木内涼子

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