誇大な触れ込みから現実へ
教育における最も有意義なAIアプリケーションは、単に自動化するのではなく、適応させるものだとスハイルは考えている。だからこそスハイルは、世界中の教育におけるAIの真の有望性は教師に取って代わることではなく、教師の時間の使い方と洞察を補強することにあると主張している。
その一例が、DaMeta1のプラットフォーム「イルムバーシティ」だ。AIチューターが授業をパーソナライズし、生徒ごとの理解度を把握するなど教師にリアルタイムの洞察を提供する、仮想教室を構築できるツールだ。マイクロソフトとAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)のアクセラレータープログラムの支援を受けたこのプラットフォームは、アダプティブラーニング(適応型学習)を主流なものにしようとする大きな流れの一部だ。メタバースはもうもてはやされていないが、より実用的なアイデアのひとつであるAIを活用したパーソナライゼーションは教育部門では依然として注目を集めている。
ソクラテス式の個人指導を提供するKhan Academy(カーンアカデミー)のKhanmigo(カーンミゴ)から、グーグルの学習に特化して訓練されたモデルのLearnLM(ラーンLM)に至るまで、他のツールもAIを活用した学習を教室に持ち込んでいる。これらのプラットフォームはいずれもパーソナライズされたAIを使いこなす教育がどのようなものかを試している。
「最高のAIツールは教師たちが過剰な雑務に追われることのないようにし、システムにはできないこと、つまり信頼関係を築き、やる気を起こさせ、微妙な問いに対応する余裕を持てるようにしてくれる」とスハイルは語った。「未来はAIと教師の対立ではなく、教師とともにあるAIだ」。
そのビジョンは定着し始めている。ポール・チューダー・ジョーンズは米ブルームバーグの番組『オープン・インタレスト』で、AIを活用したバーチャル家庭教師は「低所得層の生徒の学力を劇的に向上させ、教育格差を是正する」可能性があると語った。英国ではケンブリッジ大学プレス&アセスメントのジル・ダフィーが英紙フィナンシャル・タイムズへの寄稿で、AIは「教育への人間の関与を代替するのではなく強化する」べきだと警告し、「学生がAIを利用したかどうかを問うのではなく、どのように利用したかを問うべきだ 」とも指摘した。
データも裏付けている。米NPOコモン・センス・メディアの調査によると、米国の10代の若者の70%が現在、学校の勉強に生成型AIツールを使用しているという。一方、世界経済フォーラムは、2026年までにAIのために900万人の雇用が失われるものの、1100万人の雇用が創出されると予測している。スハイルによると、これは単なる労働のシフトではない。「リテラシー格差の変動だ」と話す。
そうした格差は米国に限った話ではない。例えばアラブ首長国連邦(UAE)では、最近の政府発表によると、2026年までに公立高校にAIカリキュラムを導入する官民連携の取り組みが進行中だ。また、韓国では8歳の児童向けにAIを活用したデジタル教科書を段階的に導入し、2028年までに複数の教科で完全に導入する計画だ。


