マネー

2025.07.22 15:30

K-1実行委員長が引き寄せた、トランプタワーとジョン・レノンの家

高級店が並ぶNYの五番街に立つトランプタワー。購入の決め手となったセントラルパークビューは「二度と出てこない」ぐらい珍しいのだという。(courtesy of Mitsuru Yabuki)

国内外で数々の不動産をもつ矢吹だが、実業界で知られているのは「再建屋」としての顔だろう。リーマンショックで不振に喘ぐ飲食店をよみがえらせた手腕が評判を呼び、東京ガールズコレクションやK-1など、土俵際に追い込まれた事業がもち込まれるようになった。

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現在トップを務める明豊エンタープライズも、コロナ禍で80億円の開発案件が止まった旧オーナー会長に頼まれて株主に。5年で売り上げを約3倍、経常利益を約4倍に成長させた。

明日は明日の風が吹く

再建屋といっても、矢吹のスタイルはPEファンドと違い、再生で価値を高めた後に売ることを目的としていない。一部を除き、引き受けた事業の多くは今でもオーナーだ。

再生コンサルやプロ経営者に多いエリート層とはバックグラウンドも異なる。本人曰く、「28歳で、伊藤忠を『いとうただし』と読んでいた世間知らず」。ビジネスに興味がなく、お金にも執着がなかったが、のちに妻となる女性の一言で人生が動いた。

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「彼女は実家が焼肉屋でした。家業の手伝いをすればいいという空気に抗いたかったんでしょうね。独学で宅建の資格を取っていて。それで『不動産屋を開けるんじゃない?』と」

不動産業を立ち上げてしばらくし、高齢で引退を考えた焼肉店オーナーが店舗を賃貸に出すことになった。矢吹は顧客に仲介を試みたが叶わず。普通なら話はそこで終わるが、老夫婦に泣きつかれて自ら店舗を借りた。家賃は200万円。いざ契約すると、売り上げが月200万円しかない店で、赤字は確実だった。「見事に利用されました(笑)」。

ただ、矢吹は世間知らずであることをアドバンテージに変えた。借りた店舗は飲食業界の常識的な経営をして不振に陥っていた。焼肉店を営む知人は多かったが、相談すればアドバイスを無視できなくなる。あえて誰にも相談せず、自分の感覚を信じて経営をした。

本人は「妄想でやっている」と煙に巻くが、無論ただの妄想ではない。矢吹には「カメラアイ」と呼ばれる高い瞬間記憶力があるという。その情報をもとに「集中すると5年後、10年後のビジネスの未来像が静止画として浮かんでくる」のだと。

加えて、4年半、週8回は他店で焼肉を食べてリサーチした。自分の店では清掃係に扮して駐車場へ。「お客様は店内で本音を言わない。帰りに車に乗り込む直前に、味が、量が、と漏らす」。妄想は徹底した検証、修正とセットになっている。

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文=村上 敬 写真(ポートレート)=若原瑞昌

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