マスク氏は5月末、「3週間から1カ月に1機のペースで飛行テストを行う」と語ったが、その目論見はすでに崩れている。スペースXは打ち上げサイトで地上燃焼テストを行うことでこの事態に対処しようとしているが、こうした進捗状況のため、有人での打ち上げは、早くても2030年代半ばが現実的だと思われる。
トランプの妨害
スペースXの火星入植計画は、民間企業である同社のプライベートミッションであり、現時点では米政府やNASAから支援を受けていない。
トランプは自身の就任式で、「米国人宇宙飛行士を火星に送り込み、星条旗を立てる」と宣言した。その後、5月に発表した2026年度予算では、NASAの予算を大幅に削減することを議会に要求したが、月と火星にヒトを送り込むための予算だけは増額しようとしている。これは大統領選でトランプ勝利に貢献したマスク氏の要望を取り入れたためと言われ、その結果、火星探査においてNASAは、マスク氏の計画に相乗りすると予想されてきた。
しかし、6月初旬に2人の罵倒合戦が勃発したことで、この火星計画に対する米政府の支援は縮小される可能性がある。その場合、進行するほど打ち上げ回数が増える同計画は、将来的に資金がショートする可能性が高い。
「大きくて美しい法案」(予算調整法案)が採決されたことで、トランプとマスク氏の関係はさらに悪化している。トランプは6月30日、以下のようにポストし、マスク氏を揶揄した。「イーロンは史上最も補助金を受取った人物であり、補助金がなければ店をたたんで南アフリカに帰国するしかない。ロケット、衛星、EVの生産も終わり、米国は莫大な資金を節約できる。DOGEにこの問題を調査させては?」。これに対してマスク氏は、「今すぐ全部カットしろと言っている」と応戦した。
そもそも宇宙政策においてトランプは、火星探査よりも新防衛システム「ゴールデンドーム」を重要視している。その予算総額は約1750億ドル(約25兆2000億円)であり、NASAの次年度予算(約188億ドル)の9.3倍におよぶ。同計画の実現性は薄いものの、既存軍需産業の利益と雇用を支えるだろう。ただし、トランプの任期は2029年1月まで。それを過ぎればスペースXの火星入植計画は、さらに現実味を増す可能性がある。


