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2025.07.09 13:30

官民ファンドのジレンマ:川村雄介の飛耳長目

LouieLea / Shutterstock.com

ペイシェントとはいえ、国民のお金だから損失は必要はないが損はするな、という資金である。海外関連はコロナ禍に見舞われて2年余り市場が蒸発してしまったし、最近は地政学リスクがとみに高まっている。それゆえ海外市場を相手にする官民ファンドは苦戦の極みにある。とはいえ公金の損失には強い批判が浴びせられる。

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「官民ファンドの活用推進に関する関係閣僚会議幹事会」という長い名の会議がある。実質的に各省庁に設立された官民ファンドに横串を入れて、横断的に検証しようと、2013年に置かれた。年に1、2度、総理官邸にファンドと関係省庁の幹部が一堂に会して報告を行い、それに対して3人の民間人委員が容赦ない質問と指摘を行っている。直近では5月に開催された。

委員たちは異口同音に、複数の官民ファンドの大きな損失は看過できず、徹底した収支管理が待ったなしであることを要請した。同時に、政府には官民ファンドの存在意義を広く国民に説明していく責務があることも強調した。官民ファンドが巨額の民間資金を誘発しており、政策目的のKPI充足度が高いこと、官民ファンド全体としては黒字であることなどはあまり知られていないからだ。

特に現在のように内外の経済金融環境が不安定かつ不透明な時期に、民間企業は守りの経営に注力せざるをえない。成長投資よりも専守防衛に徹する企業のほうが多い。だが、こういうときにこそ、日本は成長へのエクイティ・ストーリーを構築することが重要だ。そのために官民ファンドの本来的機能を果たしてもらいたいと痛感する。

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知日家のボブが苛立った口調で迫る。「USスティールのホワイト・ナイト、ニッポン・スティールは元々官営企業じゃないか。どの国も政府の関与がなければビッグ・ビジネスは進まないよ」。

折しもネットニュースが、トランプに退任を告げられたイーロン・マスクの姿を報じていた。そういえば、テスラの発展も米国政府の巨額補助金に支えられていたはずだ。


川村雄介◎一般社団法人グローカル政策研究所代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。

文=川村雄介

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