電話口の声が弾んでいた。「Hi! 今パナマにいる。ちょっと相談があってね」声の主は旧友の米国人弁護士、ボブだった。「最近はパナマ政府の相談に乗ってるが、面白いプロジェクトがあるんだ」。
彼はふたつの案件を興奮気味に語った。まずはパナマ運河の水不足問題である。同運河は閘門式で水位を調節しながら、カリブ海と太平洋間に船舶を移動させる。問題は運河の半分近くを占めるガトゥン湖の水量が減少して、水位が下がり気味なことである。放置すると大型船が航行できなくなってしまう。 幸いガトゥン湖の周辺の山々は内部に豊富な水を蓄えている。そこにトンネルを掘って湖に注ぐ計画が持ち上がっているという。
もうひとつが高速鉄道の延伸だ。ホセ・ラウル・ムリーノ新大統領の公約でコスタリカとの国境まで延ばす案だ。
「どちらも日本のお家芸だろ。興味を示す日本企業があると思う」。前のめりのボブの発言だが簡単な話ではない。どちらも典型的なインフラ・プロジェクトで、関係者が多く契約が多数かつ複雑である。コスト負担や収益分配の交渉も面倒だ。地政学リスクが伴い、何より長期間を要する。民間企業にとってあまり儲かる案件とは言えない。
するとボブは返してきた。「でも日本には官民ファンドがある。インフラ・ファンドを使えるだろう?」。彼が指摘するインフラ官民ファンドとは、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)である。このファンドは設立11年で巨額の赤字を計上している。テキサス州の高速鉄道投資で417億円の損失となったのが痛い。
官民ファンドは、有望な市場でありながら民間企業だけでは手を出しにくい分野や回収に長期間を要する案件に対して、国のお金を投じて民間投資を誘発しようという政策目的で設立された投資機構だ。現在18機構が存在する。原資は税金ではなく財政投融資資金である。
財投資金はペイシェント・マネーともいわれ、すぐに利益が出なくても我慢できる性格をもつ。産業競争力強化や海外市場の開拓、商業化を前提にした先端研究の促進、ジャパン・コンテンツのマネタイズ、通信放送の国際化等々への、リスク耐性が強く長期間堪えられる資金とされる。官民ファンドには分類されないが10兆円大学ファンドも財投資金から出ている。



