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2025.07.15 07:45

フィクションなのに泣ける「物語」とリアルなのに響かない「広告」の見えづらい境界線

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現実の不幸な出来事は突然やってきます。そしてそれに直面したとき、わたしたちは感情を味わう余裕などなく、ただ反応するしかありません。

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でも、たとえば物語や広告、誰かが語るエピソードなどであれば、わたしたちは心の準備をした上で、体験することができます。

だからこそ、そこで感じる気持ちや心の動きを、安心して味わうことができるのです。

特に、ネガティブな感情を味わうなら、「作りもの」であることがいっそう重要になります。

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なぜなら、ハッピーエンドのストーリーを経験するのであれば、別にフィクションである必要はないからです。楽しさとか心地良さは、なんなら現実で起きてほしいことですから。

でも、悲しみや喪失、恐怖や不安のようなネガティブな感情は、そうはいきません。

現実ではあまりにも重すぎて、とてもそのままでは受け止められない。

だからこそわたしたちは、あえて「設計された体験」に身を置く。

安心して感情に向き合える「場」があるからこそ、その強い感情をちゃんと体験することができるのです。

思い切り心を動かすには、「現実すぎない」ことが大切です。

現実から距離を取り、感情を経験するために整えられた場所だからこそ、人は自分の感情を味わえるのです。

「演出」だとわかったほうがいい

感情を大きく動かす体験を作るうえで、必ず守るべきことがあります。

それは、「現実」と「作られた体験」とのあいだに、はっきりとした境界線を引くことです。

リアルすぎてはいけないのです。

このことをうまく説明してくれるのが、18世紀の哲学者ドゥニ・ディドロが提唱した「第四の壁」という考え方です。

ディドロは「舞台には、4つの壁がなければいけない」と言いました。客席から舞台に向かって一番奥にある正面の壁と、右手の壁と、左手の壁。そしてもう一つはどこでしょうか。客席の後ろの壁ではありません。

舞台と観客席の間には、目に見えない透明な第四の壁というものがあるのです。それが舞台の世界と、わたしたち観客のいる現実の世界を明確に区別しています。

小説であれば紙のページ、映画であればスクリーン、動画やCMであればテレビやスマホの画面がその「壁」の役割を担っています。

この壁があってこそ、わたしたちは本気で感情移入できるのです。

たとえば、ホラー映画がどんなに怖くても観客が映画館の椅子にちゃんと座っていられるのは、「スクリーン」という壁があるからです。もしお化けや殺人鬼が本当にスクリーンから出てくる可能性があるとしたら、わたしたちはそこに留まって感情を揺らすどころではありません。

次ページ > 安心して「感情を全開で体験できる」ための装置

文=石津智大/関西大学文学部心理学専修教授

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